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「会社の数字」がわかる社員による、ヒエラルキーのない組織作り【JALナビア】

高津良彦

2019年03月29日 公開 2019年04月15日 更新

「JALに遠慮している必要はない」

――その一方で、親会社であるJALとの関係に変化は生じましたか?

高津 われわれはJALやジャルパック社との業務受委託関係で仕事を行っており、これらのグループ企業から委託費を頂戴して運営しています。アメーバ経営を入れる前には、この委託費が過去の実績に基づく硬直化したルールで決められていました。

しかしいまは違います。いま述べたような仕組みに基づいて、段階ごとの成果と金額をリンクさせ、そのトータルに近い金額を委託元から戴くようにしているのです。それにより、委託費合計は以前とあまり変わらなくても、仕事の成果「質と量」がより上がっているため、委託元には喜んでもらっていると確信しています。

――まさに、生産性の向上につながっているわけですからね。

高津 JALが単純にトータルの数字だけではなく、個別の仕事の成果に基づくわれわれの「働きぶり」を見てくれているおかげで、コミュニケーションがすごく強化されました。

以前は期首にほぼ固定化された委託費に基づく契約を取りかわして以降は、双方ともにあまりコミュニケーションを持つこともなく一年が過ぎていました。ところがいまは、われわれが事細かに成果を示すので、委託元はこれまで以上に委託先をしっかり見ていないと、意見も言えないし、提案も出来なくなったのです。

当社の社員に私が言っているのは、「委託元に対しての不必要な遠慮は無用。しっかりと意見を取り交わして前を見て堂々と仕事をしよう」ということです。

先に申し上げたように、アメーバ経営のもと、JALの企画部門でわが社の経営を見ているA君と、われわれのオペレーターのB子さんの間には共通言語が存在しますから、意思疎通がしっかりと図れるのです。A君の分析がおかしいと思ったら、「うちの会社を一度見に来たらどうですか」と言えばいい。

そして、現に委託元の関連部のスタッフが当社に来て、ぐるぐる現場を回って委託先である当社の状況を肌で感じてくれています。「どれだけ少ない人数と少ない時間で、最大限の収益を上げているか」というJALグループ共通の物差しで、各部門を細かく見てくれていますね。結果としてお互いの仕事の質が上がり、より良い関係になっています。

――親会社・グループ会社という上下関係ではなくて、ネットワークの構成員同士という意識で、お互いを捉えていらっしゃるんですね。

高津 その感覚が本当に強いと思います。もちろん、「JALグループ全体の経営の最終決定権が誰にある」ということははっきりしていますが、JALのトップを含めて、役割分担をして協力し合うという意識を首脳陣が共有してくれていると思います。

――その関係の中で、「付加価値をここまで高め、時間当たり採算も向上させ、JALグループ全体の収益向上に貢献したのだから、少し委託費を増やせませんか」と、提案したりしないのですか?

高津 そこで重要になってくるのが「JALフィロソフィ」です。
これが上位概念にあり、物事を決めていくのです。

もちろん社員の努力に報いるための適正な提案は適宜行いますが「利他の心」が大切であり、「一人ひとりがJAL」という価値観で仕事をしているので、親会社や他のグループ会社との間で、売上や利益の奪い合いをすることを良しとはしません。お互いをリスペクトし合って、仕事を進めていくという感覚です。

「部門別採算制度」はあくまでも経営を正しい方向に導いてくれる全員参加型の仕組みであって、仕組みそのものに踊らされてはいけない。個別の組織の収益のみに捉われず、最終的にJALグループ全体で利益がしっかり出て、それをもとに社員還元、お客さま還元ができ、社会の進歩・発展に貢献することが大切であると、私は考えています。

――JALグループ全体で良くなればいいという、大局的な捉え方ですね。

高津 また、「人間として何が正しいかで判断する」ということを基準に置くJALフィロソフィは、部門におけるアメーバ経営の行きすぎの歯止めにもなっています。

先の話でいうと、体調が悪くて休むと1日50本分の収益が得られなくなる。それを避けるため、「具合が悪いのに出てくるようなことを、絶対にしてはならない」と、私は強く言っています。

もう一つの例を申し上げます。オフィスの環境を整え、社員の健康に役立つような家電製品があり、それを部門の皆が買ってほしいと望んだとします。

しかし生真面目すぎるリーダーは、「期首に決めた経費に計上していないから」と考えてしまい買うことをためらいがちです。この時私は、「リーダーとして、メンバーの皆さんに必要なものだと本気で思うのだったら、買いなさい」と背中を押すのです。

このようなことを繰り返すことでむしろ部門別採算制度を通じて、リーダーがこれまで以上に、自分のチームの社員の健康や心の状態などに目配りするようになってきています。

社員の安心・安全を守って健康を管理することがスタッフの幸せにつながる。「それを続けていれば、部門としても収益も上がり、一石二鳥」と思っているリーダーが着実に増えていると感じています。

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