「部下にやる気が無い!」と憤る上司ほど過信する“自分は悪くない”
2019年06月24日 公開 2024年12月16日 更新
バイアスによって生じる「解釈のズレ」
もうひとつ、よくある場面をご紹介しましょう。
営業のBさんは、クレーム対応のため、朝から急遽、お客様先に直行していました。支店長のEさんはそのことを、他のメンバーから聞いていたのですが、どういったクレームかがわからず、心配しながら報告を待っていました。
次の会話は、夕方、外出先から戻ってきたBさんと支店長のものです。
「何があったんだ? 大丈夫だった?」
「ありがとうございます。手配商品にミスがあったんです。あとで報告します!」
「あのなー。あとでって。だいたい、なんで中間報告の電話がないんだよ」
「あ、すみません。ただ、支店長がいつも、プロセスはいいから、結果を報告するようにと言っていたので、対応がすべて終わってから報告しようと思っていたんです」
「つべこべ言うな。俺の指示が悪いってお前は言いたいの? まったく、ケースバイケースもわからないのか? そんなんだから、クレームが起きるんだよ!」
支店長は、大声で怒鳴りつけ、Bさんは暗い表情で席に戻りました。
このとき、支店長にはどんなアンコンシャス・バイアスがあったのでしょう。
支店長には、「クレームが起きたときは、随時、状況報告をすべきであり、そんなことは言わなくても、報・連・相は常識」という思い込みがありました。ですが、部下のBさんは結果のみ報告するように言われていたので、その指示に従ったつもりだったのです。
また、支店長のEさんには、部下のBさんの発言が、「報告しなかった原因は、上司の指示が悪いからだ」という口答えに聞こえてしまったがゆえに、つい感情的になってしまったとのことでした。
会話の始まりは穏やかでした。「クレーム対応の結果は大丈夫だったんだろうか?」という上司としての心配から始まりました。
「何かサポートできることはないだろうか?」という気持ちから声をかけたつもりが、部下とのやりとりを重ねるうちに、やがて支店長のアンコンシャス・バイアスにより、「解釈」のズレが生じ、最後は感情的になってしまったというわけです。
怒りではなく「感情を言葉にする」
こんなふうに、自分が"イラッと"したとき、感情的になったときに注目してみましょう。
アンコンシャス・バイアスは、自分の快・不快の感情と密接に結びついています。なかでも、イライラなどの不快な感情は、「防衛感情」ともいわれていて、「私は正しい」「私は悪くない」というアンコンシャス・バイアスを強めます。
つまり、イラッとしたそのタイミングに、「今、自分の中になにかのアンコンシャス・バイアスがあるのではないか?」と考えてみることで、自分の中のバイアスをあぶりだすことができます。
そして、アンコンシャス・バイアスに気づいた次の段階では、感情のままに怒りを表現するのではなく、「感情を言葉にすること」を意識してみましょう。
前述の支店長の場合なら、
「つべこべ言うな。俺の指示が悪いってお前は言いたいの? まったく、ケースバイケースもわからないのか? そんなんだから、クレームが起きるんだよ!」
と怒鳴る代わりに、
「これまで、結果報告だけでいいと伝えてきたものの、トラブル時には、随時、報・連・相をお願いしたい」
このように冷静に伝えることができたなら、結果は違うものになるはずです。
また、たとえばリーダーであるあなたが、会議で意見を求めたときに、誰からも発言がなかったという場面で考えてみましょう。
こういうときは、「何だ、何の意見もないのか!」と、ムスッとした表情を見せるのではなく、「みんなの考えも聞いてみたいので、意見じゃなくて感想でもいいので発言してもらえるとうれしい」と、感情を言葉にしてメンバーに伝えてみるのです。
また、意見が出ないのは「メンバーのやる気がない!」ではなく、自分自身に原因があるのではないか?と自問自答してみることも大切です。
「メンバーよりも、リーダーである自分のほうが常に正しい」
「メンバーよりも経験があるから、リーダーである自分の判断に間違いはない」
「メンバーよりもリーダーが偉い」
といったアンコンシャス・バイアスによる「決めつけ」や「押しつけ」の言動によって、メンバーの意見を否定したり封殺してしまっていたことが原因で、意見が出にくい雰囲気になっているのかもしれません。
これではイノベーションなど起こるはずもありません。「自分も含めて、メンバー一人ひとりの考え方やものの見方には違いがあっていい」という見方に変換するのです。
「経験の浅いメンバーにいいアイデアなんて無理!」といったバイアスを持っていたことに気づいたなら、「そんなことはない」と思い直しましょう。
フラットにメンバーの意見を聞いたうえで、否定ではなくメンバーの「よいところ」「できている側面」に光をあてるよう意識し、「その案は素晴らしい!」「この部分は観点がユニークだ!」「(突飛な案に思えるが)こうすれば実現可能かもしれない」と「プラスの面」に意識の置きどころを変えるクセをつけることが大切です。
「自分の中にアンコンシャス・バイアスはないだろうか?」と考える。
バイアスに気づいたなら「感情を言葉にすること」を意識する。
否定ではなく「よいところ」「できている側面」に光をあてる。
これらを意識することで、自分にも周りにも変化が生まれます。ぜひ、この心のトレーニングを取り入れてみてください。