1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 経営破たん後、JALをV字回復に導いた 「リーダー教育」のリアル

仕事

経営破たん後、JALをV字回復に導いた 「リーダー教育」のリアル

上野明、川名由紀、宍戸尚子

2019年07月05日 公開 2019年07月05日 更新

 

明らかに組織内の「ツーカー度」が増した!

勉強会

――このような教育を通して、結果として、皆さん相当変わられましたか?

上野 経営破たんした当時、部門間には大きな壁があって、会社の重要な決定を任された経営幹部の方々の「横のつながり」は弱かったように思います。ところが「リーダー教育」が浸透していくにつれ、時間の経過とともに壁がどんどん低くなっていきました。

また、経営破たん前は経営が危機的な状況にあったにもかかわらず、会社の数字に関して社員は、「自部門の上司を通じてではなく、マスコミから知る」という状態になっていました。

ところがリーダー教育以降は、リーダーが自らの組織を引っ張るにあたり、会社の経営情報を皆で共有し、ともに力を合わせて危機を突破する形へと、変わっていきました。そして組織のメンバーの多くも、「このリーダーについていって、皆で成果を上げよう」と考えるようになりましたね。

川名 3,000人に対して行なったリーダー教育では、毎回、最終回に皆の前で決意表明をしてもらっていました。それを聞く機会がたびたびありましたが、「部下に飯を食わせる」という発想で決意をされる方が多くおり、そういう決意表明を聞いた時は事務局としてではなく、いち一般社員として「この人の下で働いてみたい!自分もできることを頑張らなければ」と心が震えました。

――会社全体の経営力強化につながったのですか。

川名 リーダー層である人たちの間に「共通言語」ができ、価値観の共有化が図れたことは大変大きかったように思います。たとえばコンパなどで、リーダーたちが話している内容を聞いていると、かつてに比べて、明らかに組織内の「ツーカー度」が増したという雰囲気がありました。このような良好な状態は、かならず経営にも生きてくるだろうと感じました。

上野 たとえば会社全体の経営戦略について議論する際、リーダー層が「同じ言葉を聞いたときに同じことを連想できる」のであれば、相当な強みになります。Aの話を聞いても、勝手にBを連想する人とCを連想する人が混在する組織と、Aを聞けば皆がきちんとAと認識して、すぐにコンセンサスが取れる組織では、経営判断の濃さが違うと思います。

――会社経営の質的向上がもたらされた。素晴らしいですね。

上野 さらに客観的データとしては、2年に1度の「社員の意識調査」で、「上司のリーダーシップ」、「経営と職場との一体感」、「経営トップ層への信頼感」といった項目で年々スコアが好転しています。リーダー教育を含めた諸施策の効果を実感することができて嬉しいですね。

――このような効果を生み出したリーダー教育は、その後も継続して続けておられますか? 

上野 リカレント教育というかたちで、研修を繰り返しています。「稲盛会長の教えを忘れていないか」、「普段の行動とリファーして、気を付けるべき点はどこか」などの切り口で反省を行なっています。

宍戸 名誉顧問となられた稲盛氏の教えは、JALグループのリーダーが身につけるべき基本的な考え方であり、この学びに終わりはありません。現在は「リーダー勉強会」という名称で、「役員・部長級」「組織管理職」など、階層別の勉強会を開催しています。

――最後に、今後のリーダー教育の課題についてお教えください。

宍戸 リーダー勉強会については、稲盛名誉顧問にご出席いただいていた当時と比較して、プログラムのマンネリ化、厳しさや緊張感の低下等の課題認識があります。この反省に立って、2019年度はリーダー教育の原点に立ち返り、「稲盛名誉顧問の教えをいかに学び実践しているか」について参加者が発表する「経営体験発表」をテーマに勉強会を開催しています。リーダーが自律性と覚悟をもって自らの経営体験を語り、それに対して参加者が真剣に意見を出し合うことを通じて、経営者としての精進、成長につなげることが目的です。

JALグループのリーダーは、稲盛名誉顧問の教えを地道に愚直に学び続けることが求められていますが、一方で社外からどのように見られているのか、自らを客観視すること、変化に対応できる自律型リーダーとなることなどを目的として、社外取締役や社外講師をお招きした勉強会も開催しています。

リーダー勉強会を今後も継続していくことでリーダーのベクトルを合わせるとともに、「リーダーのあるべき姿」を追求し続けたいと考えています。

関連記事

×