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“廃墟の街”熱海が「奇跡の大復活」を遂げた理由

市来広一郎(いちき こういちろう:株式会社machimori代表取締役)

2019年07月17日 公開 2019年07月17日 更新

“廃墟の街”熱海が「奇跡の大復活」を遂げた理由

<<2000年代には「衰退の代名詞」とされた静岡県熱海市。「民間から、ビジネスの手法を使ったまちづくりで熱海を変えよう」。そんな信念のもと、2007年にUターンした市来広一郎さんが上梓されたのが『熱海の奇跡』(東洋経済新報社)です。

市来さんは補助金に頼らない自主プロジェクトを次々に立ち上げ、市役所、地元の方々との連携によって、熱海再生の立役者となりました。

地域資源を活用した体験交流ツアーを集めた、「熱海温泉玉手箱(オンたま)」のプロデュース、空き店舗をリノベーションしたカフェ「CAFE RoCA」、ゲストハウス「MARUYA」、地元で働く人のためのコワーキングスペースの「naedoco」を立ち上げ。今も新たな挑戦を続けています。

市来さんが実践されている「まちづくり」の成功要因は何か? 地方創生を担う人材に必要な力とは? 熱海以外の地の活性化、地方創生に活かせるポイントをお聞きしました。(記事提供:本の要約サイト「flier」)>>

 

熱海の衰退の根本原因は何だったのか?

空き物件をリノベーションして生まれた熱海銀座のゲストハウス「MARUYA」。ゲストは干物屋で購入してきた魚を宿のグリルで焼き、朝食にするという。
空き物件をリノベーションして生まれた熱海銀座のゲストハウス「MARUYA」。ゲストは干物屋で購入してきた魚を宿のグリルで焼き、朝食にするという。

――かつては「衰退した観光地」の代名詞となっていた熱海。当時と現在を比較して熱海はどう変化しましたか。

有数の温泉観光地として栄えてきた熱海ですが、バブル崩壊後には宿泊客数が半減。人口も約3分の2に激減しました。最も街が停滞していたのは2000年代半ば。熱海の観光の口コミサイトを見ると、クレームの書き込みが散見され、旅館やホテルは廃墟になっていく一方でした。

私は東京でコンサルタントの仕事をしていましたが、地元熱海に帰ってきて愕然としました。にぎわっていた商店街が次々にシャッター街になっていたからです。旅館やホテルの跡地にマンションが建設され始めていましたが、9割近くは別荘での利用。定住者が増えるわけではありません。マンションだらけで熱海らしい風景が失われていくことにも危機感を覚えていました。

そのような状況だったのが、2015年度には宿泊客数308万人と、2001年以来14年ぶりに300万人台を回復しました。廃業したホテルや企業の保養所をリノベーションし、新たに誕生した宿も少なくありません。

高齢化率自体は2000年代よりも現在のほうが高いものの、熱海で活躍しているプレイヤーが若返りしているのも、大きな変化の1つです。もちろん社会貢献をしているシニア層も多数いますが、リアリティをもって20、30年後の熱海の未来を考えられる30、40代という世代の活躍は、地方の活性化という意味でも重要だと考えています。
 

――熱海で衰退が起きていた根本的な原因は何だったのでしょうか。

過去に温泉地として成功しすぎたことでしょうか。90年代までは団体旅行が主流で、旅館とか箱を用意していればよかった。ですが観光客のニーズは、団体客による宴会歓待型から、個人や家族による体験・交流型へとシフトしていった。かつて成功したやり方では、もはや観光客も満足しなくなってきたのです。これが熱海を含めた温泉観光地が衰退していった根本的な原因でした。

「このままでは生き残れない」。旅館・宿泊業の人たちも、2000年代になってやっと危機感を強め、ニーズの変化に対応し始めるようになりました。

また個人旅行が増えると、個人客が街中で出会う人たちやお店からも、その土地のイメージができていきます。当時の観光客の満足度はかなり低いものでした。

住民の方々へのインタビューでわかったのは、熱海に対してネガティブな印象をもっている人が多いということ。地元の人が熱海の魅力に気づいていなければ、観光客も熱海のファンにはならないでしょう。

まずは地元の人が熱海を知る必要がある――。地元の人が地元を楽しむ体験交流ツアー「オンたま」をプロデュースしたのも、そんな狙いがあったから。こうした具体的な取り組みから得た経験則を、他の地域でも活かしていただきたいと思い、『熱海の奇跡』を執筆しました。

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V字回復を可能にした2つの要因

著者紹介

フライヤー(flier)

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