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「ていねいな暮らし」に疲れた店主が開いた、不思議な「本屋」



2019年09月12日 公開

山下賢二,松本伸哉

 

「センスがいい」ことの居心地の悪さ(山下)

ホホホ座の起源は、京都の個人店主たちのうだつのあがらない会話から始まりました。時は、2012年……ごろ。

僕は、ガケ書房という本屋を営んでいました。2004年に京都市左京区北白川にオープンしたその店は、京都のサブカル書店の一翼を担っている存在でした。

半分に切られた軽自動車が石垣に突っ込んだ外観。ベストセラーの本は、ほとんど置いていない風変わりな品揃え。大手出版社の本の隣に自費出版の本が並列に並べられている陳列方法。作家によるハンドメイド雑貨のほか、店内には貸し棚があり、そこではいろんな職業の人の個人的な古本も販売していました。

ガケ書房は、当時少しずつ減ってきていた町のCDショップとしての顔もありました。

売り場面積の3分の1は、CDでした。

しかし、どの本屋ともまったく違ったのは、店を囲う石垣の内側に、池のある細長い庭があったことでしょう。そこで亀4匹を放し飼いしていました。そこだけが、店主の趣味全開の空間でした。店内のガラス越しにお客さんは亀の生態を見ることができます。

趣味で思い出しましたが、よく誤解されていたことの1つに、ガケ書房の本の品揃えは僕の好みで仕入れていると思われていた節があります。オープン当初は、すかした〈セレクトショップ〉を僕もやっているつもりでした。セレクトショップという〈立場〉に酔う若造がそこにいたのかもしれません。セレクトショップあるあるです。

しかし、生来のひねくれ気質がうずいたのか、セレクトショップ店主として、気持ちよく酔えずに吐いてしまった僕がいました。実にオープンして3日目ぐらいだったでしょうか。

元々、セレクトショップに興味のない人間が無理をするものではありません。また、セレクトという言葉を使ったモノの売り方や自分自身の売り出し方に居心地の悪さを感じました。

関西弁でいうところの「あほらし」ということでした。

若い頃、バブルを経験した世代が編集権を持つポジションにつき始めた2000年を過ぎたあたりから、〈清潔と特別〉を前面に押し出した雰囲気の店や人が流通の主軸になりつつありました。それは一般的には、「センスがいい」と認識されていきます。

「センスがいい」の基準は今、ほぼそれだけになってしまった気がしています。「センスがいい」を体現している店員も客もいわば皆、ほろ酔い状態でその空間にいます。でも、たぶんそういうことなんだと思います。雰囲気に酔うことが、まずはセレクトショップの入口なのですから。

しらふではなかなかできません。そこに客観的な突っ込みはいらないのです。言い換えれば、自分たちを笑いとばすようなユーモアの視点がそこにはありません。全員がボケを担当しているのです。

熱くなってしまいましたが、別にそういう人たちのことを憎んでいるわけでも嫌いなわけでもありません。少し苦手なだけです。

なぜなら同じ人間なので、根本は同じだと思っているのです。言動の根っこには、何かしら大小のコンプレックスがあり、ダサイ部分やかっこ悪い部分は体験として自分が一番知っているのです。その部分を認める・認めないの違いが酔える・酔えないの違いなのかもしれません。

 

「付加価値」というマジックがとけた先に(山下)

セレクトは物を売ることの基本です。販売業の場合、セレクトしないと成立しません。

どこで?  どれだけ? なにを? その3つの問いが販売にはついてまわります。

どこで? は、立地。つまり、その場所の特性です。客層が関係してきます。

どれだけ? は、予算。つまり、在庫量です。販売面積が関係してきます。

なにを? は、内容。これこそがセレクトの心臓です。店のテイストが関係してきます。

店を回していくためにこの3つの要素は必要不可欠です。ほとんどの〈セレクトショップ〉は、なにを? をクローズアップし、メディアからもそこが注目されたりしますが、残りの2つの要素があって初めて、セレクトが行われていることを忘れてはいけません。

また、〈セレクトショップ〉と思われていない、つまりメディアがわざわざ掲載しないような店も実はすべてこの3つの要素の下に成立していることも忘れてはいけません。

大きな違いは、なにを? の実際の中身ではなく、切り口の部分です。同じ商品をセレクトしても、その店のキャラクターや紹介の仕方で商品に付加価値をつけることができます。そういう見せ方ができるかどうかが〈セレクトショップ〉の称号をもらえるかどうかのボーダーラインといえます。

いってみれば、付加価値というのは1つのマジックで、暗示のようなものです。その暗示が解けてしまった人間たちが、2012年ごろに集まりました。

セレクトショップ店主として酔えない山下、松本、加地の3人は、〈しらふ〉で酒を交わし、うだつのあがらない会話をし始めました。

僕はガケ書房を背負って、 松本はコトバヨネットを背負って、 加地は移転前の100000t を背負って。

とりあえず、この3人で活動するときのチーム名を決めようという流れになりました。

そのときの僕は、グループや場所を表すとき、すでに皆の頭から忘れられた単位を用いようと思いました。

英語は、僕らには合わないのでもってのほか。なんとか社? なんとか舎? なんとか堂? なんとか本舗? それとも、1つの名詞だけで完結させるか?

そして、ハイボールを呑みながらふと、思いついたのは、座でした。スカラ座みたいなクラシカルなイメージ。劇団にも俳優座などありますね。加地に提案すると、

「ええやん、それ」

と例のあいづちを低い声で早速いただきました。松本も、なに座にしようかと考え出しました。いろいろな候補が出ては消え、またうだうだとどうでもいい話が始まりかけたそのとき、

「ホホホ座っていうのはどう?」

となんとなく発案されました。しかしそのときは皆、口を揃えて言いづらいなぁとなり、その名前を最終候補にその場は解散。

ホホホ座というグループ名を僕は密かに温め始めていました。まだ、おっさん3人の口約束だけの実体なき言葉。その言葉に既成事実を作っていこうと考えていました。

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