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生き方

エリート社員の道を捨て車いすバスケに賭けた夫…妻の言葉「応援する」の真意

山田清機(ノンフィクション作家),〔撮影〕尾関裕士

2019年11月29日 公開 2023年10月13日 更新

 

ふたりの息子のために

2018年7月1日、日本車いすバスケットボール連盟は、同連盟が主催するすべての大会において、健常者の参加を認めることを議決した。

すでに国内には、健常者を主体とした車いすバスケの大学リーグがあるし、各地のクラブチームで障がい者と一緒に練習に励んでいる健常者も多い。

今回の決定は、そうした健常者プレーヤーに大会参加の道を開いたことになる。背景には、障がい者も健常者も分け隔てなく車いすバスケットボールという競技に参加することを通じて、共生社会の実現に貢献するという連盟の考え方がある。日本車いすバスケットボール連盟会長の玉川敏彦が言う。

「連盟に登録している選手の数は、最盛期に1200人を数えましたが、いまは700人まで減ってきている状況です。

地域によっては持ち点の関係で14.0点のチームが構成できないケースも出てきていますが、今後健常者の参加が増えていけば、こうしたチームも共生社会の実現に向けて大会に参加できるということも見えてきます。今年度はすでに、60名の健常者の方が選手登録をしています」

選手が減少している理由としては、交通事故や作業中の事故が減少していること、医療制度改革によって長期のリハビリを受けることなく病院を出されてしまう障がい者が増えたことなどが考えられるという。

かつては長期間にわたってリハビリを受けるうちに、さまざまなパラスポーツに誘われ体験をする機会があったが、この情報過多の時代に、むしろパラスポーツとの接触機会は減っているというのである。玉川が言う。

「私なんて、医者から『一生歩けませんよ』と宣告された直後は、死んでしまおうと思いましたよ。そんな状態からスポーツを楽しもうという気持ちになるまでには、相当長い時間がかかりました。いまは、そうした気持ちの変化が起きる前に退院させられてしまうのです」

連盟の新たな規定で、健常者は最軽度の障がい者と同じ4.5ポイントをもつことになった。試合に健常者が出場することが車いすバスケの世界にどのような影響をもたらすかは未知数だが、藤澤がK9のメンバーになったときに感じた、「障がい者同士の戦いだからこそ、言い訳はできない」という感覚は、果たして保たれていくだろうか。

2018年5月、藤澤は練習環境のさらなる向上を求めてソーゴーからコロプラへ移籍した。今回はいわゆる「アスリート雇用」である。

月に1回出社して上司とスケジュールなどの打ち合わせをするだけで、それ以外の時間をすべて練習とウエイトトレーニングに費やすことができる。藤澤が言う。

「僕たちしか考えていないことかもしれませんが、いま日本代表候補は金メダルを取れるチームを本気でつくろうとしていて、メンバーたちはみんな、自力で金と時間を整えて練習に来ています。

このふたつを揃えていないと、日本代表に残るのは難しい。僕が金メダルチームに入るためには、必要とされる選手であり続けるしかありませんが、それには成長を止めないこと以外に方法はないんです」

無論、いくら努力を重ねても藤澤が代表に残れる保証はない。若手の台頭も著しい。もちろん不安はあるが、藤澤は毎晩ノートを開いて「いま具体的に何をすべきか」を書き記すことで心を落ち着けているという。

東京パラリンピック日本代表の発表は、おそらく2020年の6月ごろになるはずだ。そのときまで、藤澤のジリジリとした焦燥と苦闘の日々は続くのだろう。

最後に、涼子の言葉を記しておきたい。

「彼の生き方はかっこいいと思います。私自身はあんなにひとつのことにのめり込むことも、継続することもできませんから。いまの生き方を貫いて、一途にひとつのことをやり通す姿をふたりの息子に見せてやってほしい。ファンではなくて、家族として応援しています」

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