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“底辺託児所"の「声を上げずに泣く子」…ブレイディみかこの胸を締めつけたもの

ブレイディみかこ

2020年02月13日 公開 2021年04月27日 更新

 

ブレイディ節の背景③――「書いてないとやってられない」

ジョン・ライドンのサイトが一部で知られるようになった頃でもあったので、日記みたいなものをついでにブログで書き始めました。そうこうしているうちに、息子が生まれて、翌年に保育士の最初の段階の資格をとって、底辺託児所とわたしが呼んでいるところに勤めることになりました。

そうしたら、そこがちょっともう、衝撃だったという。ああいうところに勤めていると、つらいんですよね。精神的に。育児放棄とか虐待されている子たち……そういう子たちって、自分の感情をうまくおもてに出せないんです。そこの回路が閉ざされているというか。

赤ちゃんが泣くのは、おなかがすいたとかおむつが汚れてるとか、何かしてほしいからなんですよね。でも、何もされないと泣かなくなるんです。

育児放棄とかされている子たちも、大人にギャンギャン言ったり反抗したりするのは、何かしてほしいからなんですけど、何もされないと何も言わない子になるんです。

底辺託児所に勤めていて一番つらかったのが……声を出さないで泣く子がいるんですよ。ギャーンとかワーンとか言わないんですよ。ポロポロって。もうね、あれはほんとに……。

1ポンドでおなかいっぱい食べられる食堂もやっていて、無職の人や低所得の人たちを支援する施設だったから、いろんな人たちがくるんです。

みんながみんな、罪のないかわいそうな人たちというわけでなく、なんかいろいろな人がいるんですよ。むかつくこととか、傷つけられることとか、怒りを感じることとかもあって、書いてないとやってられない。それで、ブログに書き始めました。

その時のブログは、自分自身に対しても何かあるんですよね。こう、意気揚々と、かっこいいことをイギリスでしてやろうと思っていたら、最果ての地に行き着いたというような。早くここ抜け出さなきゃいけないとか本気で思ったりして。そういう気持ちもありつつそれを整理するために書いていたというか。

あの時はほんとに怒涛の経験で、肉体的にもですけど、精神的にボロボロになっていました。でも子どもたちにはボロボロのところは見せられないですし。どこにそれをぶつけていたかというと、それがブログじゃないですかね。

でもブログも、今読んでみると最終的には希望が残るような書き方をしているから、きっとそれは自分のために書いたんですね(笑)。それでも明日も働こうみたいな。

── そのブログがもとになって出版された『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)には、この子たちはこれから生きていく存在なんだと感じさせられる場面がたくさん出てきて、読者としてはそこに感動していたのですが、それは自分のために書いたことでもあったんですね。

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』もそうですよ。いろいろぐちゃぐちゃあるけど、光があるような書き方をしていると、毎日出版文化賞をいただいたときの書評で角田光代さんが書いてくださいました。

だけど、結局そういうのもよく考えてみたら、わたしや息子や、息子の友だちのために、明日も学校に行こうという気持ちがやっぱりどこかにありました。

いろいろあるけど、みんな仕事行って、学校行って生きていこうよ、と。人様を元気づけるというより、自分たちを、という部分があるんじゃないかな、という気がします。

── 自分のために言い聞かせていることでもあるけれども、結局それがすごく人に伝わるというところは、おもしろいなあと思ってしまいます。

その感想を聞いて思うのは、日本の人もみんないろいろつらいんだろうな、元気がほしいのかなということです。日本よりイギリスのほうが、表にいろいろな問題が出ているじゃないですか。あからさまに出しちゃう人たちだし、隠さないんですよね。

EU離脱のごたごたにしても、ずっともめていますが、イギリスの人たちはダイナミックに何かを変えようとしている。

ぶつかりあいながら、ほんとにみんな見つけようとしているし探そうとしているし……そこに、元気というか活力があるんじゃないですかね。そういうものがたぶん、日本にはあんまりないような気がするんです。

だから、この本を読んで勇気をもらったとか光が見えたとおっしゃるのは、こういう、表だってぶつかりあうところにそうしたものを感じてくださったのかなと思います。本当は日本にも、まだ表に出てないものがあるというのを、みんな深層心理では知っているのかもしれません。

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イギリスの親と日本の親の違い

著者紹介

フライヤー(flier)

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