見えないコストを見える化する"機会コスト"
ここでは、「機会コスト」について、例を挙げながら解説しましょう。
機会コストとは、選択肢が複数あった場合、もう一方を選んでいたら得られたであろう利益のことをいいます。別のことを選んだがゆえに、失ってしまった利益をコストとしてとらえる考え方です。
マクドナルドでは、毎月のように期間限定商品を出します。通常は問題ありませんが、ときどき想定を大きく超えて売れることがあります。3000店舗規模で展開する商品が想定以上に売れてしまうと、原材料の追加発注が難しく、欠品してしまうことがあります。
このケースで、もし原材料が潤沢にあって、売り続けることができたら得られたであろう利益が機会コストです。
機会コストでよく引き合いに出されるのは、専業主婦の家事コストです。一部には家事コストはかかっていないという意見もあるようですが、それが正しくないことは機会コストの考え方で説明できます。
家で家事に従事している人は、一方で外に出て働かない選択をしています。だとすると、外に出て働いていたら得られたはずの給料が、専業主婦の機会コストになります。
数年前、新垣結衣さん(森山みくり役)と星野源さん(津崎平匡役)が主演して大ヒットとなったドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系列)で、星野さんが新垣さんと形式的に結婚しましたが、新垣さんに給料を出しました。
そのときの星野さんのセリフは「家庭内労働にもきちんと対価がつくべきだ」だったと思います。星野さんは機会コストを理解していたので、新垣さんに給料として19万4000円を渡していたのでしょう。
国の調査によれば、機会コストの考え方で専業主婦の仕事内容を金額に換算すると、年間300万円程度になるそうです。これがまさに機会コストの金額です。
ドラマでは実際に給料を払っていましたが、通常の機会コストはお金は支払われません。したがって、会計の決算書にこのコストは含まれません。機会コストは目に見えないファイナンスだけのコストなのです。
働き方改革も機会コストで考えられる
近年、取り組みが進む働き方改革も、機会コストで説明ができます。
すべての会社が実施しているわけではありませんが、「残業削減手当」という考え方があります。いわゆる働き方改革によって労働時間が短縮されたことから生まれた発想です。
これまでは、残業すれば残業手当が出ました。でも、今は残業を推奨していません。事の是非はともかく、これまで残業代が給料の足し前になっていた人たちは困ってしまいます。
いくら頭では働き方改革が大事だとわかっていても、家に帰って子どもと過ごしたり、自己啓発したりすることが大事だといわれても、背に腹は替えられません。
働き方改革についてはさまざまな取り組みがありますが、比較的うまくいっている例を見ると、残業を減らした人に相応の手当を支給するとか、残業を減らしても実際に支給される金額が変わらないように、基本給を上げるといったケースがあります。
ただし、会社側から見ると、労働時間は短くなっても人件費は変わりません。同じ仕事のやり方をしていたのではこなせる量が減り、会社の損になります。そこで多くの会社はこれらの「お金」の施策と同時に、生産性が上がるツールを導入するなど、工夫をしているようです。
一方、個人にとっては残業代が給料の足し前になっている人が多いので、会社側としてはお金に関する施策を講じないと答えにならないのです。
人は判断するとき、無意識のうちにお金のことを考えているということです。