人と接することを得意とするディープラーニングの開発がブレイクスルーとなる
私たちが考えているのは、その逆で、人と深くかかわるためのAIの技術です。それが、「HAI(ヒューマン・エージェント・インタラクション)」と呼ばれる技術です。大きく分けると、次のような違いがあります。
①人とかかわることが苦手なディープラーニング
②人とかかわることが得意なHAI
人とかかわることが苦手なディープラーニングを利用しながら、人とかかわることが得意なHAIを使えば、さらなるブレイクスルーになるはずです。
いまのところは、ディープラーニングとHAIの別々の柱がある状態になっていますが、2つの柱に分かれているのは、私たちの研究がまだまだ完全ではない証拠だ、と私はとらえています。
現在もHAIの研究にディープラーニングの技術が生かされていますし、HAIがディープラーニングに貢献できることもあります。
実際に、現在も両者はそのように混ざり合っていますが、人に寄り添うための技術は未成熟です。
HAIを前提としたディープラーニングのような、さらに新しい基礎技術開発がゆくゆくはされていくべきだと考えています。人と優れた相互適応をする機械学習技術は、まだディープラーニングにもHAIにもないと思うからです。
ここで、HAIという新しいキーワードを出しました。ドラえもんづくりは、人とかかわりながら性能を高めていくというアプローチをしますから、人とかかわるHAIの技術がキーポイントになります。
そこで、このHAIを深掘りしていきたいと思います。
ロボットいじめに対抗できるのは「弱いロボット」
HAIはロボットと人の両方を含んでおり、両者を一体のシステムととらえて研究する分野です。つまり、HAIは工学だけでなく、心理学や認知科学の領域を含む研究分野といえます。
具体的な例をあげて説明したほうがわかりやすいかもしれません。
HAIの一例は、「弱いロボット」です。
たとえば、ゴミをなくすために、ロボットを導入することを考えてみます。スーパーマーケットやショッピングモールで、ゴミをなくしたいというときに、自動的にゴミを拾って回収してくれるロボットがあれば便利です。
言うのは簡単ですが、つくるのはかなり大変です。ゴミであるものを正確に認識し、アームをうまくコントロールして、つかんで捨てる技術が必要になります。また、スーパーマーケットの中で人とぶつからないように、安全に配慮したロボットにしなければなりません。
仮にそういうロボットが開発できたとします。ここで、もう一つ問題が出てきます。
完璧なゴミ拾いロボットをつくってスーパーマーケットの中で動かすと、お客さんに邪魔者扱いされる可能性が高いのです。子供の場合は、ロボットをいじめて動けなくするなど、いたずらをすることもあります。
あまり知られていませんが、カメラの視界を遮ったり、前に立ちはだかって進めなくしたり、直接叩いたりするなど、「ロボットいじめ」の問題は研究者にとってかなり深刻で、それ自体が一つの研究テーマになっているほどです。
すばらしいロボットをつくったのに、人から邪魔者扱いされて、いじめられて、うまく使えない。そんなオチが待っています。
HAIのソリューションは、ゴミを拾う機能がないゴミ箱型のロボットです。これは豊橋技術科学大学の岡田美智男先生の研究ですが、ゴミ箱型のロボットがゴミを認識して、ゴミのほうに歩み寄っていくのだけれども、ゴミを拾えずにモゾモゾする。
そうすると、モゾモゾしている姿を見た人が「かわいそう」と思い、「助けてあげたい」という気持ちになって、ゴミを拾って捨ててくれるのです。ゴミに近寄って人を気にせずにモゾモゾするだけですから、開発する際の技術的な難易度は下がります。
実験をしてみると、実際にみんながゴミを拾ってロボットのゴミ箱に入れてくれるそうです。ゴミを拾う機能をもっていないのに、ロボットと人が協力することによって、スーパーマーケットのゴミがなくなっていくというわけです。
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完璧ではないロボットだから、人とともに過ごしていける