コロナウイルスの影響で、夫婦がともに過ごす時間が長くなり、二人で会話をする機会も増えている。すると、夫の何気ない一言が、妻を怒らせてしまうこともある。たとえば、妻が⼥性が、勤め先の上司のことで愚痴 を⾔ったら「その上司も⼀理あるよな」と⾔ってしまったり……。
男性からしてみれば「なぜ、この一言でそんなに怒るのか」ととまどってしまうのだろうが、女性のほうは「なぜあの人は人の気持ちがわからないのか。まず、自分の気持ちをわかってほしい」と嘆いている。
人工知能の研究者であり、「男性脳」「女性脳」の専門家である黒川伊保子さんは、その理由を「男性の脳が、『ゴール指向問題解決型』の脳になっているから」と断言する。
※本稿は、黒川伊保子著『コミュニケーション・ストレス』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
男性と女性の「脳みそ」
――男女の脳は違うのか、違わないのか。
この命題への正式な回答は、「機能的には違わないが、とっさの使い方が真逆になることがある」である。
ただし、とっさの使い方の違いに、コミュニケーション・ストレスの要因のほぼすべてが集約されていると言っても過言ではない。
この「とっさの使い方」を人工知能の手法に基づいて追究していくと、ヒトが脳の中に、「二つの感性モデル」を内在しているのがわかる。
その二つとは、「プロセス指向共感型」の脳と、「ゴール指向問題解決型」の脳である。ここでは、「ゴール指向問題解決型」について述べよう。
ゴール指向問題解決型は、「目標にロックオン」するための感性モデル
ゴール指向問題解決型とは、目標達成に集中するための脳の使い方である。ゴール指向型の脳は、意識の最初に、目標(ゴール)を見定める。ロックオンと言ったほうがふさわしい。目標だけが鮮明に見え、それ以外が見えにくくなるからだ。
そして、その目標を達成するための危険因子を瞬時に見分け、速攻で対処する。危険因子が見当たらなければ、躊躇なく足を踏み出す。判断が速く、有事の対応力に長けているのが、この神経回路の特徴だ。
人の気持ちがわからない?
目標にロックオンするためには、空間認知の領域を使う。それが物理空間(たとえば獲物)であれ、概念空間(たとえばビジネス案件)であれ、その目標の位置情報を明らかにしなければならないからだ。
それは、「遠く、大きな」案件なのか、「近く、小さな」案件なのか。周辺案件と比較して、その達成難易度も計らなければならない。危険な動きをする者もいち早く察知しなければならない。これを的確にこなすためには、今、脳に展開した思念空間に集中する必要がある。
「身辺のごちゃごちゃ」や「過去のうんぬん」に気を取られている暇はないのである。そこは、プロセス指向型の脳にきっぱりと任せたい。こちらを巻き込まないでほしい。それが切なる願いだ。
つまり、「目の前のものが探せない」「目の前の人の気持ちを察することができない」「話を聞いてない」は、優秀なゴール指向問題解決型脳の特性なのである。これを許してもらえないと、残念なことに、この脳の問題解決力はみるみる落ちてしまう。
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男性の脳は、ゴール指向問題解決型を優先する傾向がある