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生き方

“山中”が“中山”に明かした「臨床医として挫折した過去のこと」

山中伸弥(京都大学教授/京都大学iPS細胞研究所所長),中山雅史(サッカー選手)

2020年10月24日 公開 2022年12月01日 更新

 

人間万事塞翁が馬

【中山】先生はいろいろな経験をされてきていますが、挫折の経験なんてないんじゃないですか?

【山中】とんでもない、挫折の連続です。学生時代は両親が健在で、のほほんと生きていましたが、社会人になってすぐ、医者になることを勧めてくれた父が亡くなりました。それに、スポーツ医学を志して整形外科医になったのに、数年で逃げ出しました。これが一回目の挫折です。

その後、アメリカに留学してかなりうまくいったので、自分には研究の才能があるんじゃないかなと思って、意気揚々と日本に帰ってきました。ところが、研究は全然うまくいかない。もう一度臨床に戻ろうかなと、相当悩みました。

【中山】それは挫折だったんですか? それとも、自分の行く手を阻む壁だったんですか?

【山中】アメリカから帰ってきてからしばらくは、研究用のネズミの世話に明け暮れて、「俺はいったい何をしてるんだろう」と思いましたね。30代半ばの頃で、人生について考える年齢でもあったので、いろんな本を一所懸命読んだりしていました。

今振り返れば、そういう大変な時期って、次にジャンプするためにかがんでいたようなものだと思います。かがみ方が中途半端だと、あんまり飛べない。深くかがめばかがむほど、次に高く飛べますよね。

だから今では、調子がいい時のほうが逆に心配になります。「次にどんな大変なことが起こるのか」と。むしろ、いろいろと問題があったりする時のほうが、「次は絶対にいいことがあるな。どんないいことがあるんだろう」と思ったりします。

【中山】期待感が出てくるわけですね。

【山中】そうです。「人間万事塞翁が馬」という言葉がありますよね。災いや幸福は転変きわまりないもので、災いも悲しむにあたらず、幸福も喜ぶにはあたらない。僕の大好きな言葉の一つです。本当にうまくいってない時のほうが、何か安心できる気がするんです。

【中山】いろんなことを経験してきたからこそ、心が折れそうな時期に、自分のなかにあるさまざまな基礎部分を固め直して、次のジャンプに備えることができたわけですね。

 

「大変だったね」では、意味がない

【中山】壁とか困難は、もちろんないに越したことはないですけど、困難や苦労に直面したからこそ、自分の成長もあったし、次のステップもあった、ということになりますか?

【山中】僕は絶対にそう思いますね。研究に限らず、何でもそうだと思うんです。今、世界全体が新型コロナウイルスで本当に大変な目に遭っていますけれど、これで次の局面がよくならなければいけない。「大変だったね」で終わってしまったら意味がないですから。

【中山】そうですね。今まで自由に行動できていたがゆえに、それが制限されて大変だと思いがちですけど、これを機に、今までとは違う行動で、なんとか不自由さを補おうという工夫が生まれることにもつながっているんだろうな、とも思います。

【山中】そうですね。テレビで観たのですが、登校拒否で何年間も学校に行けていなかった子供さんが、オンラインで初めて同級生と一緒に授業を受けて、「すごく楽しくてよかった。オンライン授業が終わってしまうのが、とても残念」と言ったそうです。登校できる子は登校し、何人かはオンラインで授業を受けても、僕はぜんぜんいいと思うんですけどね。

【中山】今は、人によって何が向いているのか、向いていないのかというのが、ものすごく細分化され、多様化してきているじゃないですか。

大人になったら全部が全部そうはいかないのかもしれないけれど、子供のうちにいろいろなやり方を経験し、何を感じ取るかは、成長するうえでとても重要ですよね。そういう意味では、細分化してもいい部分がたくさんあると思うんです。

【山中】おっしゃるとおりです。ある一つのやり方が全員にベストとは限らないですから。リモートワークでものすごい才能を発揮する人もいると思います。

日本は横並び文化なので、特定のやり方に馴染む人はいいけれど、それに馴染めない人はいじめられてしまったり、ドロップアウトしたりというケースがけっこう多いような気もするんです。

これを機に多様性に対応できるようになれば、大変な事態をプラスに変える一つのケースにもなると思います。

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