人の生活レベルとは実に面白いもので、必ずしも高収入だから生活に余裕があるとは限りません。収入が高くても毎月の生活がカツカツな人もいれば、収入が低くても比較的余裕のある生活をしている人もいます。
これは実に単純な話で、生活の「支出」が「収入」を上回っていないかどうかの差でしかありません。ではなぜ、収入がある人がそれ以上の借金をしてしまうことがあるのでしょう? そして高収入でも住宅ローン審査に落ちてしまう人、また破産してしまう人がいるのはなぜでしょうか?
住宅メーカーで多くの人の住宅購入とその後に立ち合い、現在は、一般社団法人建物調査協会理事を務める著者が明らかにします。
※本稿は、屋敷康蔵著『人生を賭けて「家」を買った人の末路』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。
過去に債務整理をしていても住宅ローン審査に通ったBさんの話
金融機関の審査の焦点が、「現在」のあなたではなく、あくまで「過去」の借金や延滞にあります。逆に過去に債務整理など「やらかした」人でも審査に通るケースをご紹介します。
Aさんはある上場企業に勤めており、年収は1000万円近くあります。乗っている車も高級車で、奥様は専業主婦でかなりのブランド好き。一方のBさんは年収300万円で、奥様はパート勤め。夫婦の合算世帯年収は400万円程度です。
普通に考えれば、Aさんのほうが上客で、Bさんはカツカツの綱渡り状態と思いがちですが、結果はAさんが審査に落ち、Bさんが審査を通過しました。
なぜでしょう?
Aさんは収入に対してあまりにも既存のローン支払いが多過ぎたのです。ご主人の車のローンに加えて奥様の車のローン、クレジットカードも複数枚保有し、キャッシング枠もショッピング枠も限度額いっぱいまで利用。さらに致命的だったのは、過去に何度か支払い遅延が発生していたことです。
住宅ローンの審査では、既存の借入れは毎月の返済額を軸に減額されていきます。ブラックではなかったので、支払いの遅れを解消して正常な支払いに戻せば、借入れ自体はまったくの不可能ではありませんでしたが、相当減額されることでしょう。
実は、Bさんのほうには致命的な過去がありました。B さんは正直で、「実は過去に債務整理したことがある」と報告してきたのです。担当営業だった私も、さすがにその時点で無理だ……と思いました。
しかし、「ちなみに債務整理はいつ頃の話ですか?」と聞くと、「任意整理の支払いが終わって、10年くらいは経つ」とのこと。この「債務整理から10年経過」という年数に可能性を見出し、事前審査に申込みをしたところ、なんと無事審査通過の報告がきたのです。そして今、Bさんは念願のマイホームを手に入れてそこに住んでいます。
私も信用情報の照会では内心ハラハラしたものの、実は債務整理から7〜10年も経過すれば、「事故情報」は信用情報から抹消される、いわば「敗者復活のチャンス」が与えられる仕組みになっているのです。
おまけに、Bさんは債務整理のため金融機関から借入れができない状態になっていたため、クレジットカードなども持ち合わせていませんでした。
つまり、信用情報を照会しても「無借金」のホワイトな人に生まれ変わっていたというわけですね。厳密にいうと、お金を「借りなかった」のではなく「借りられなかった」だけなんですけどね。
ちなみに、住宅ローンの審査では、クレジットカードは実際には使っていなくても、利用限度額がそのまま借入れとみなされます。つまり、100万円の限度額のカードを50万円しか使っていなくても、いつでも100万円借りられる状況を踏まえ100万円借りているのと同じこととみなされ、「負債」として計算されるので気をつけましょう。
審査の結果には、「条件付」という金融機関からの回答がくる場合があります。これは「融資実行前までに車のローンの完済条件付」や、「カードローンの完済条件付」といった、住宅ローンを組む前に借金を減らしておかなくてはならない条件のことをいいます。
年収が高くて小金も持っているのに住宅ローンを組めない人もいれば、過去に「ブラック」となっても、その黒い過去を清算し、住宅ローンを組むことができる人もいる。実に人生はさまざまです。
でも、注意してくださいね。「よかった、よかった。昔やらかしたことがあるから、審査に通らないと思ったよ」なんてこと、間違っても金融機関の人に公言しないように! 金融機関側もそんな事実を聞いてしまった以上は、貸すことができなくなりますから……。
住宅ローンが通った人には、さらにローンが通りやすくなる不思議
住宅ローン審査を通ったとしても、高収入の人には思わぬリスクが待ち構えていることをお伝えしましょう。それは、周りが安心してさらにお金を貸してくれるということに起因します。
皆さんが住宅ローンの審査を受ける時、既存のクレジットカードや車のローンの残債等、その他の借金が審査上問題となるのは周知のことですが、逆に住宅ローンを組んだ後のクレジットカードやその他ローンの審査はどうなると思いますか?
実はクレジットカード等の審査では、住宅ローンの残債は問題視されないのです。むしろカード会社からすれば、住宅ローンを組んでいる人というのは、すでに金融機関からお墨付きをもらっているようなものなので、「厳しい審査を通過した人」「賃貸の人と比べて転居の可能性も低い」ということで、賃貸生活者よりも審査上有利となるのです。
住宅ローンという莫大な借金を抱えたのに、住宅ローンを組む前よりもお金が借りやすくなるなんて、実に不思議な話ですよね。
つまり、住宅を購入したことで、さらに個人の信用は上がり、小口のお金が借りやすくなるのです。どんなに多額の住宅ローン残債があったとしても、カード会社等は年収の高い人にはさらにお金を貸し付けるというわけです。
この不思議な仕組みの結果、実は住宅購入後にカード破産をする人も少なくないのです。比較的高収入の世帯が、住宅の購入をきっかけにさらに生活レベルを上げ、「車・教育・遊興費」と見栄を張った末に破綻する人も大勢います。
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