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一人当たりの病床数は“ダントツ”の日本が「医療崩壊の危機」に陥る理由

2020年12月29日 公開

鈴木亘(学習院大学経済学部教授)

 

一般病床の受け入れを増やせぬ理由

第二に、大学病院、公立・公的病院、民間病院などの受け入れ可能病床を、なかなかスムーズに拡大できなかったことが、病床のひっ迫を招いた。

もちろん、各都道府県は、域内の病院を集めた説明会を何回も開いたり、個別に交渉を行うなどして、一般病床を少しずつ空けるよう懸命の調整努力を行ってきた。

しかし、感染症指定病院ではない普通の病院にとって、新型コロナ患者を受け入れることは大変ハードルが高い。まず、新型コロナ患者の対応には、感染症専門医や訓練された医療スタッフが必要となる。

また、院内感染を防ぐためには、新型コロナ患者専属の医療スタッフを張り付け、既に世界的にひっ迫していた防護具を十分に用意しなければならない。彼らの家族への感染を防ぐためには、病院の近くのホテルに長期滞在してもらうなどの対応も必要である。

陰圧室(空気感染を防ぐために、気圧を低くしてある病室)や隔離用の障壁なども急遽設置しなければならない場合もある。したがって、都道府県が依頼できるのは、どうしても広さやマンパワーに余裕のある大規模病院に限られる。

さらに、こうした病院は空き病床がそもそも少ない。我が国の入院医療サービスの価格(診療報酬)は、基本的に患者が病床にいないと計算できない仕組みであり、検査代・手術代などの治療費以外に、ただベッドを使っているだけで請求できる診療報酬部分が意外に大きい。

したがって、病院経営は「病床を埋めてナンボ」の世界と言われ、いかに空き病床を少なく管理するかが医業収益の決め手となっている。もし新型コロナ患者を受け入れるとなると、高い収入が期待できる他の病気の入院患者を断らなければならなくなる。

さらに、風評被害などで、入院だけではなく、外来の患者数までも減少する可能性が高い。医療スタッフに対する差別も発生する。これでは、各病院とも、なかなか受け入れを了解できる状況ではない。

 

金銭的補償の問題

さらに、新型コロナ患者数が急増している都市部では、そもそも厚生労働省・都道府県による一般病床の数量規制(病床規制)が厳しく行われており、普段から病床が足りないぐらいである。

その上、近年は「地域医療構想」によって、高度急性期病床や急性期病床を削減・転換するよう、病院に「圧力」がかけられてきた。特に公立・公的病院については、再編統合や病床数の適正化案の作成期限が2020年3月に迫るというタイミングであった。

こうした事情もあり、各都道府県の担当者は、医療機関との調整が非常にやりにくかったはずである。

せめて、新型コロナ患者に対する診療報酬を大幅に引き上げられれば、調整も進めやすいのであるが、2020年2月から4月前半までは、病院に対する金銭的補償はほとんど存在しない状態であった。

厚生労働省が新型コロナ重症者への診療報酬を倍増させたのは、ようやく4月半ばのことであった。さらに、それでは全く採算が取れないという現場の声を聞き入れ、3倍増にしたのは何と5月末のことである。

また、空き病床確保に対する交付金が措置されたのは第二次補正後の6月半ばのことであった。あまりにも遅く、小出しの対応と言わざるを得ない。

どうしてこのような「戦力の逐次投入」ばかり行うのだろうか。これは厚生労働省の担当部局の想像力欠如(先読み能力不足)やロジスティクスの甘さもさることながら、診療報酬変更が「中医協」(中央社会保険医療協議会)で了承を得る仕組みとなっていることが大きい。

関係者間の高度な合意形成と利害調整が求められ、小回りが利かない中医協の問題点については拙著『社会保障と財政の危機』(PHP新書)で述べたので、興味がある方はご一読いただきたい。

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