上司は「壁」に徹するべし
そして、二つ目のポイントは、興味本位で質問しないこと。
「『雑誌の取材を受けたんです』と言われて、『どんな雑誌?』『編集者ってどんな人?』『その雑誌、俺も好きでよく買うんだよね』と興味本位で会話に入っていくと、1on1が上司のための時間になってしまいます。終わったときに部下が『自分のための時間だった』と思ってくれるのが良い1on1であって、決して上司のための時間ではありません」
あくまで主役は部下で、上司は本人が記憶を辿るお手伝い役。それくらいの感覚でいれば、興味本位の質問はしなくなる。
「この場合なら、『雑誌の取材を受けたんです』『へえ、それで?』『仕事のことを色々聞かれて』『そうなんだ』というように、相槌に近い軽い質問を返すだけでいい。
あるいは、『取材を受けたんだ?』『色々聞かれたんだ?』と、相手の言葉をオウム返しにするのもいいでしょう。ヤフーではよく1on1を『壁打ち』と表現します。上司が壁になり、部下から飛んできたボールをそのまま跳ね返すくらいのつもりでちょうどいいのです。
すると部下は、『取材はどんなふうに進んだんだったかな?』『そういえば取材でこんなこともあったな』などと、自然にそのときの状況を思い出します」
ただし、部下が内省を深め、自分でもよくわからないモヤモヤを言語化するには、時間がかかる。部下が考え込んで、会話が止まることもあるだろう。だが、それはむしろポジティブな反応と捉えるべきだという。
「良い質問は沈黙を呼びます。それだけ相手が深く内省しているというサインだからです。私はよく『他には?』と質問します。仕事の失敗から話が進んで、『次はちゃんと準備をしようと思います』と部下が話したとしたら、『そうだね、準備することだね。他には?』と聞いてみる。
すると相手は不意を突かれて『えっ』となり、『う〜ん』と言って考え込む。この時間が大事なのです。『他にできることはあるかな?』『いや、そもそも準備って具体的に何をしたらいいのだろう?』と、自分で内省を深めていくからです」
「他には?」という質問で、部下自身も気づかなかった本音や隠れた悩みが出てくることもある。
「1on1は部下のための時間なので、どんなテーマを話すかは部下が決めます。ですから、『今日は何を話そうか?』が上司の最初の質問になります。そして、部下が『Aを話そうと思います』と答えたら、『そうなんだ。他には?』と聞いてみる。
『Bも気になるかな』と答えたら、『それもいいね、他には?』と、また聞いてみる。『あとはCですね』と返ってきたところで、『この三つのうち、どれから話そうか?』と聞く。そこで思いがけず、『さっきは言いませんでしたが、Dを話していいですか?』と部下が切り出すことがあります。
これは『他には?』と聞かなければ出てこなかったテーマです。しかも、すぐに出てきたテーマより、実はDこそ部下が本当に話したかったことかもしれない。
先ほども話したように、部下はどうしても上司に忖度するので、AやBは上司の期待に応えるために用意した可能性もあります。『他には?』と聞くことで、部下が話す内容を限定せず、何でも自由に話せる状況を作ることができるのです」
質問はテクニックより観察
部下の成長を促すには、質問のテクニックを磨くより、相手に興味を持って観察することから始めるべき。それが1on1を続けてきた本間氏の実感だ。
「部下をちゃんと見ていれば、『最近、朝早いね』といったひと言からコミュニケーションが始まります。すると、『次の評価が下がるとピンチなので頑張っています』という答えが返ってくるかもしれない。すると上司は、部下が次の評価を気にしているのだと知ることができます。
部下を観察していれば、1on1のときも、『3週間前に言っていたことと違うなあ』とか『君はこの話になると、すごく楽しそうだね』といった言葉が自然と出てきます。それが、部下にとって気づきになる。
以前、ある部下に、『このプロジェクトの話になると、いつも腕組みするね』と指摘したことがあります。すると、少し沈黙してから、『そうか、自分はあの仕事、嫌いなんです!』と言われて、驚きました。プロジェクトに対するモヤモヤが、無意識に腕組みになっていたのでしょう」