電車に乗っているとドキドキする――もしかしたらそれは「パニック障害」が原因かもしれない。年々患者数は増え、現代では身近になっている病気だが、まだまだ適切な治療が行われていないと語るのは心理カウンセラー・影森佳代子氏。自身も苦しんだ経験を持つ同氏にパニック障害について詳しく伺った。
※本稿は、影森佳代子著『パニック障害 大丈夫!かならずよくなる』(河出書房新社)より一部抜粋・編集したものです。
パニック障害は身近にある病気
私は鎌倉で鍼灸院を開業している鍼灸師・心理カウンセラーです。コロナ禍で不安感や孤独感からメンタルの不調を訴える患者さんが多く訪れます。実は、私自身がパニック障害を患い、苦しみ、6年かけて克服した過去があります。
私がパニック障害を発症したのは2001年5月、電車の中でした。なんの前触れもなく突然、心臓がドキドキし始め、呼吸がしづらくなり、このまま気を失ってしまうのではないか、と激しい恐怖に襲われました。
すでに心理カウンセラーとして仕事をしていたので、「パニック障害」についての知識はありましたが、突然の発作状況になんの対応もできませんでした。
厚生労働省の患者調査によると、パニック障害の患者数は1999年から増加傾向にあり、18年間で約10倍に急増、現在、日本では10人に1人の割合で「パニック障害」に悩む人がいると言われています。パニック障害は特殊な病気ではなく、誰もがなる可能性がある病気といえます。
男女比では、女性は男性の約3倍も発症しており、圧倒的に女性に多い病気です。年齢的には、女性は30〜35歳、男性は25〜30歳が多いといわれていますが、私の鍼灸院には、10代から60代の幅広い年齢層の人がパニック障害に悩んで来院されています。
恐怖で電車に乗れない…
突然、強い不安感に襲われ、動悸や呼吸困難、冷や汗、めまいといった症状があらわれる……このパニック発作は、パニック障害の特徴的な症状のひとつで、パニック障害は不安障害のひとつに分類されるものです。
私が最初にパニック発作を起こしたのは、5月でした。その翌日から怖くて電車に乗れなくなり、当時通っていた鍼灸の専門学校を休んだまま夏季休暇を迎えました。
そのときは「夏休みの間、ゆっくり休めば治るだろう」と深刻には考えていなかったのですが、9月になり、いざ学校が始まっても、電車やタクシーなどの乗り物には怖くて乗れませんでした。
なんとか学校に行こうと電車に乗ってはみるものの、動悸や息苦しさ、のどの詰まりが起こり、乗っていられるのはひと駅が限界。それ以上の乗車は無理でした。
しだいに電車だけでなく、バスや窓を閉め切った車にも乗れなくなりました。さらに、混雑したスーパー、美容院、歯科医院、人混み……と、「怖くて行けない場所」が次々に増えていったのです。
「これは、きちんと治療しなければ……。専門医に相談しよう」と決心し、精神科を受診。そこで、パニック障害と診断されました。パニック発作がやっかいなのは、激しい不安症状がいきなり起こることです。
さっきまでなんの問題もなく過ごしていたのに、急に心臓がバクバクし始め、呼吸できないような息苦しさを感じたり、激しい恐怖感や不安感に襲われたりします。「このままでは死んでしまう!」という死への恐怖を感じる人もいます。
発作が繰り返し生じると「電車恐怖」「外出恐怖」となり、通勤や生活に支障が出てしまいます。こうした不安症状は「またなるのでないか?」という「予期不安」を生み、次いでその状況に置かれると自律神経が勝手に不安定になって発作が起こってしまうのです。