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侍ジャパンはなぜ強かったのか? 国際大会で勝負を分けた「リーダーの一言」

2021年08月14日 公開

仁志敏久(横浜DeNAベイスターズファーム監督)

仁志敏久

公式競技になってから初のオリンピック金メダルに輝いた侍ジャパン。稲葉監督をはじめ、国際大会の経験が豊富な選手が多かったのも勝因となった。

本稿では、「第5回WBSC U–12ワールドカップ」において侍ジャパンを過去最高成績の準優勝に導き、現在、横浜DeNAベイスターズファーム監督を務める仁志敏久氏が、国際大会における勝負の美学、敗戦時の対応などについて述べる。

*本稿は、『指導力 才能を伸ばす「伝え方」「接し方」』 (PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。

 

「野球道具が盗まれる可能性」もゼロではない

私の指導者人生で最も印象深い「実践」の一つに、2014年から2019年までの約6年間任せていただいた、侍ジャパンU-12監督という大役が挙げられます。

中学生や小学生の選手を指導する立場として、私は毎回、選手たちが滞りなく試合に臨めるように、限られた日程のなかで効率的な指導プランを考えていました。私が迷えばチームが迷う。相手はまだ幼い子供たちです。言葉ひとつ、行動ひとつに責任があることを自覚し、指導しました。

子供たちのなかには初めて海外に出かける子も数多くいました。そのため、その国の文化や習慣がわからなかったり、場をわきまえず盛り上がって大騒ぎになってしまうこともしばしば。そこが日本でないことをわかっているようでわかっていない。なので、単独行動にならないように目配りが欠かせません。

たかだか夜の素振りの帰りでも必ず大人をつけ、部屋に帰ったことを確認する。素振りの場所はホテルの駐車場であってもそれは絶対です。何かあってからでは遅いので、安全確認はぬかりなく行ないます。

また、大会中は他国の子供たちも同じホテルに宿泊するため、子供同士で挨拶したり、仲良くなったりということもあり、お互いの部屋を行き来するような状況にもなりがちなのでそこも注意します。

何が悪いのかというと、他国の子の部屋へ入って何か物がなくなれば当然疑われます。その可能性は低いと言っても、ゼロではありません。そもそも言葉が通じないわけで、何らかの行き違いが生じる可能性は十分あります。交流はたいへん結構なのですが節度をもって付き合うことも教えます。

逆に、他国の子供を部屋に招き入れることも禁止します。理由は同じですが、どちらかというと他国の子を招き入れるほうが、問題が起こる可能性は高いため、より強く注意をします。

これは私自身の経験によるもので、アマチュア時代に国際試合に数多く参加し、気をつけなければならないことの一つとして先輩などからよく教えられました。

野球道具が欲しい、金品が欲しい。そんな欲求をもつ人間はどこに潜んでいるかわかりません。海外へ行けば盗まれるほうが悪いと考えるしかない場合もあります。私もアマチュア時代の海外遠征で盗難にあった経験があり、私以外の選手やスタッフも同様の被害に遭遇したことが何度かありました。子供同士だからといって安心はできません。

実際に、日本チームではありませんが、他国の子供と仲良くなり、部屋に入れたらほかの子も入ってきて物を盗まれたという事例もあります。小さなものでもなくなれば気分は悪い。

そうならないためにあらかじめ注意を喚起しておくのです。命にかかわることだけでなく、大会中に必要のないイヤなことに遭遇しないように気をつけるのも監督の役割です。

経験させたいことと経験させたくないこと。どちらに対しても大人はよく考えて準備し、子供たちにもしっかりと準備をさせる。野球の試合に臨むだけではないという意識をチーム全体で共有することが大切です。

 

敗戦時に選手にかける「一言」は?

短期間で作り上げられたチームとはいえ、寝食を共にした仲間たちと優勝をめざしてひたむきにプレーした時間は尊い。大会後半になれば、「もうすぐ終わってしまう」「優勝したい」「でも早く家に帰りたい」など、心の中は複雑に揺れ動きます。

ワールドカップは台湾の台南市での開催が通例となっており、ホテル、球場ともに環境は素晴らしいのひと言。とくに圧倒されるのは台湾戦の観客動員数。以前は台湾のプロ野球チームの球場を使っており、スタンドの収容人数は1万人を超えます。

ワールドカップで日本勢初の決勝進出となったこの大会、子供たちの必死の頑張りも一歩届かず、0-4という結果に終わりました。残念ながら世界一は逃したものの、準優勝。立派な成績です。

試合後の表彰式と閉会式を控え、悔しさをこらえきれない日本チームの子供たちは周囲の目もはばからず涙が止まりません。

「ほら、表彰式が始まるぞ」そんな姿を愛いとおしく見ながらも行動を促します。シクシクと泣きながら整列する日本チームの子供たち。

予選、スーパーラウンドと目覚ましい活躍を見せた日本チームからは個人賞に選ばれる子も出ました。台湾、韓国、アメリカ、中南米などの強豪国を相手に準優勝、個人賞にからむ活躍は誇らしい結果です。これから成長していくうえで、最高の思い出と自信を身につけたのではないかと思います。

表彰式が終わり、チームで記念撮影をしようという流れになりました。「はい、並んで!」「ほら、お前もっとこっち」まとまって「はい、チーズ!」。

気づけば、そろそろ笑顔も見えてきています。「子供は切り替えが早いな」と笑みを浮かべつつ子供たちを見回すと、まだ泣いている子が。ということは、表彰式中ずっと泣いていたのでしょう。

大会関係者が個人賞をもらった子をそれぞれ写真に収めようと、一人ひとり呼んで写真を撮っています。それでもその子はまだ泣いている。「おい、まだ泣いてんのか」。そこにいた日本チーム関係者の大人たちは、みな「まったく、しょうがないな」という表情で慰める。慰めたところで収まらないことはわかってはいるのですが。

しかし、私にはその光景が微笑ましく、嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

じつは、私の中には「どんな終わり方をするのか」というテーマもありました。勝って大喜び。負けて大泣き。大活躍だった、打たれてしまった、打てなかった、ミスをしてしまったなど。さまざまな筋書きのない終わり方が訪れます。

どんな最後を迎えるかによって、話す内容も伝え方も変わります。

もちろん勝つに越したことはありません。しかし、順位決定戦などの試合に勝ってまずまずの成績で終わるよりも、優勝を逃す、あるいは悔しい敗戦という結果のほうが子供たちにとっては今後の成長の糧になるものです。

中途半端に自信が芽生えるくらいなら、課題を残して終わったほうがさらなる高みをめざしていける。日本にもまだまだ自分たちよりも上手な子がいるだろうということは薄々わかってはいるとは思いますが、もっと視野を広げて「世界はどうか」と考えてほしい。高い目標ができ、それによってやるべきこと、考えるべきことが変わってくるからです。

彼らはまだまだ世界に向かうには早い年齢ですが、その意識をもち実際に行動していけ ば、いずれ必ず周囲との差を生むと思うのです。そういう意味で、いつまでも泣いている子を見て、希望を感じたのでした。

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