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開発秘話だけでは売れない...「ヒット商品」を生むための3つの指標

小西利行(コピーライター)

2021年10月20日 公開

開発秘話だけでは売れない...「ヒット商品」を生むための3つの指標

売れる商品には必ず「欲しくなる物語」がある――コピーライターの小西利行はいう。しかしそれは、一般に考えられているような、いわゆる「創業物語」や「商品開発秘話」ではない。ユーザーが欲しくなる、この時代こその「ストーリー」とは何か?

※本稿は、小西利行著『売れ型 誰でもアイデアが湧き出す思考法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

「商品が欲しくなる物語」がヒットを生む

僕はストーリーをいわゆる「物語」ではなく、「商品(サービス)が欲しくなる物語」として定義しています。だから、ストーリーと言っても起承転結が必要なわけでもないし、明確な登場人物がいるわけでもありません。

人の心を動かし、「欲しい!買いたい!」という感情を生むものであれば、すべて「ストーリー」だということです。僕が一番好きな「ストーリー」は、1960年に閣議決定された「国民所得倍増計画」です。国民へのメッセージをダイレクトに表したこの長期経済計画の名称は、本当にすばらしいと思います。

ただ「経済成長を目指します」と言われるよりも、「所得が倍増する」と言われた方が、生活が豊かになるイメージがより具体的に湧きますし、「そうなりたい!」とワクワクします。

実際にここから日本経済はぐんぐん成長し、10年でGNPを2倍にするという目標を大幅に短縮。結果的に発表から7年で計画を達成する大成功を収めました。もちろん、計画の内容や外部要因(為替など)の貢献も大きいのですが、国民一人ひとりが「頑張れば所得が倍増するんだ!」と希望を持って働いたことがなによりの原動力だったと思います。

ではどうすれば、そのように心に突き刺さり、人に話したくなるストーリーが生み出せるのか?僕が大切にしているのは、「切望」と「快感」です。

まずは「切望」から話しましょう。不満から理想にたどり着く道筋がアイデア。実は、この不満と理想のギャップが大きければ大きいほど共感が強くなります。つまり、まさに切望しているような願いが叶う商品やサービスは、その人にとってとにかく強いストーリーとなるわけです。

Googleなどはまさにその例。情報があふれて困るようになった現代に爆発的に広がったのは、まさに切望する願いを叶えたからでしょう。

さらにもう1つ、ストーリーに大切なのは、「快感」です。「気持ちよくする」ことは、まさに、人間の本質と向き合い、より強力に機能するストーリーをつくるための視点と言えます。

そもそもですが、人は、苦しいことや悲しいことをやりたくありません。例えば、世界が進むべき道を示したSDGsも、「努力して実践しましょう!」では、長続きする施策になりません。なにかをガマンしなければいけないのでは、実際の行動に移せない人もいるのです。

でも、「これは楽しいよ、気持ちいいよ」と伝われば、積極的に「やりたくなる」のも人間。だから「こうすれば気持ちよくなります」というストーリーを考えれば、売れるというわけです。

 

ストーリーは創業物語や開発秘話でもない

何度も、ストーリーとは「商品が欲しくなる物語」だと話していますが、それは、ストーリーという言葉ゆえに、勘違いしやすい点があるからです。まず、売れているブランドには、必ずと言っていいほど良いストーリーがあります。

例えば、ケンタッキーフライドチキンのストーリーというと、一般的には「カーネル・サンダースがガソリンスタンドの一角で始めたレストランが、世界規模で展開するまでに成功した」「62歳で起業し、多くの波乱に見舞われながらも世界初のフランチャイズビジネスを成功させた」といった「創業ストーリー」があげられるかもしれません。

でも、今これを聞いて、「ケンタッキーに行こう!」と思うでしょうか。「へえ、すごいなあ」とは思いますし、尊敬を集めたりはするでしょうが、店舗に足を運ぶ、もしくはデリバリーを頼むといった行動にまではつながらないでしょう。

したがって、これだけでは「商品が欲しくなる物語」ではないと言えます。つまり、「今、機能するストーリー」ではないのです。

では、ケンタッキーフライドチキンの、今のストーリーとはなんなのでしょうか。1つは、オリジナルの「あの味」です。「11種のハーブとスパイスからなるオリジナルレシピ」と言われている「あの味」。実は、これも体験としての「ストーリー」なのです。

実際、ケンタッキーフライドチキンと聞いて、皆さんの中にも、大好きなあの味とか、あの店の感じとか、あの笑顔といった過去のイメージが思い出されると思いますし、それを誰かに話して、一緒にお店に行ったりしたことがあると思います。

それも実は「ストーリー」の力。接客やサービス、流れている音楽すらも、ストーリーになるのです。そう考えれば、もちろん、カーネル・サンダースおじさんの顔も、ストーリーと言えます。あの顔を見たら「あっ、ケンタッキーだ」と思いますよね。

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