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開発秘話だけでは売れない...「ヒット商品」を生むための3つの指標

小西利行(コピーライター)

2021年10月20日 公開

 

相手の立場になってストーリーを見つける

なんでもいい……とはいえ、本当になんでもストーリーになるかというと、そうでもありません(笑)。ストーリーは「相手」のものだからです。つまり、企業側が「これはすごいぞ!」と思って伝えても、相手が興味を持たなければ、情報の海の藻屑となります。

僕が最も大切にしている考え方は、「『伝える』から『伝わる』へ」ですが、まさに、企業の思いで伝えても、買う側の人々に伝わらなければ、意味がないわけです。

そして「伝わる」ためには、相手の興味やニーズに合致した商品やサービス、キャッチコピーやプロモーション企画が必要ということになります。この視点はとても重要です。

届けたい商品、思いついたアイデア、自分の強い思いは、そのまま伝えるのではなく、相手の立場で考え、相手が興味を持てるように届ける努力が必要になります

例えば、コーヒーの新商品を開発する際は、豆の産地を打ち出すことが多いですが、消費者は、本当に豆の産地に興味があるのでしょうか。普通の人にとって、豆の産地による味の違いはそんなにわからないでしょう。

だから、豆の産地にこだわる前に、なぜコーヒーを飲むのか、どんなときにコーヒーを飲みたくなるのかを考えた方が、良いアイデアが生まれる可能性が高いかもしれません。

少し前に流行った「ワンダモーニングショット」という缶コーヒーは、「朝に飲む缶コーヒー」というストーリーで売れましたし、伊右衛門も、今の人々が「おいしそう」と感じるのは茶葉の種類や淹れ方ではなく、鮮やかなグリーンというストーリーを生み出して成功しました。

すべては結局、想像力の問題だと言う人がいますが、まさにそうかもしれません。相手の立場に立つ想像力こそが大切。「やってあげたい」とか「これをするとうれしいだろう」というのはエゴです。答えは、相手の中にあります。

僕は、ストーリーを考えるとき、一般的に「世の中の声」と言われているマーケティングデータを重視しません。恣意的に数字を見ることもできるし、見方によって数値が変わることすらあるから、あくまで参考程度に見るようにしているのです。

僕は、数字は「効率」のためにあり、アイデアは「愛情」のためにあると考えています。そして、ここ数年で、すべてのビジネスが効率から愛着へと変化しつつあると感じています。例えば、これまで住居は「効率」で選ばれることが普通でした。まさに、駅からの距離、通勤時間、家賃といった数字で測れるものが基準になっていたと思います。

でも、最近では、「この街が好き」「この家の古さが好き」といった愛着で、家を建てたり買ったりする人も増えているし、近くにお気に入りのパン屋さんがあることや、リノベーションした内装のセンスなどで選ぶ人も増えてきていると思います。

 

売れるアイデアの3つの指標

僕の本業であるコピーライティングのこれからの課題も、愛着につながるストーリーを見つけることと言っても過言ではありません。

コピーの本質も、ストーリーの本質と同じく、「商品が欲しくなる物語」だし、これから「欲しくなる」ためには、消費よりも「共感+所有」が大切で、「効率よりも愛着」が大切だからです。ところで、僕がストーリーやコピーを考えるときの指標は、たった3つだけです。

それは、「知りたい」「欲しい」「話したい」。もっと知りたくなるか、とにかく買いたくなるか、どうしても誰かに話したくなるか、この3つの指標を考え抜くことだけが、良いストーリー、良いコピーを考える指針なのです。

これからの時代に大切となる「愛着」を生むには、相手の人生の中にある、「知りたい」「欲しい」「話したい」を考えることが大切なのです。

1つ、成功例をお話ししましょう。10年以上前に僕が関わった「はなまるうどん」のプロモーションで考えたアイデアです。それは、よく飲食サービスで提供される「50円引きクーポン」を使ったものでした。

クーポンキャンペーンは、それだけでも人が動く気になるものですが、アイデアとしてはとても普通で、話題性も共感性も弱い。クーポンの金額が高ければ高いほど、人を動かす力は強くなりますが、このときは50円と決まっていました。先ほどのおもしろさ曲線で言えば、商品からの距離が近く、おもしろさが足りないわけです。さて、どうするか。

僕は、クーポンにストーリーをつけることにしました。それが「期限切れクーポン復活祭」。はなまるうどん以外のクーポンでも、期限切れなら50円引きにするというキャンペーンです。

まだスマホなどの電子クーポンがある時代ではなかったので、みんなの財布には期限切れのクーポンが大量に入っていました。その上、それが50円引きになるのだから、とにかくいっぱい使われました。

結果として話題になり、集客にも貢献して、大ヒットとなりました。さらに、このアイデアだと「自社でクーポンを発行しなくていい」ので、お金もかからないというおまけつき。まさに一石二鳥のアイデアでした。

「50円引きクーポン」をそのまま伝えるだけでは、おもしろさが足りない。そこで、「知りたい」「欲しい」「話したい」の指標を踏まえ、共感されるストーリーをプラスしたわけです。

そうすれば、「いわゆるクーポン」もおもしろくなり、愛着も生まれるのです。もし皆さんが、プロモーションアイデアに困っている場合は、この3つの指標からストーリーを加えてみるようにするといいと思います。

 

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