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これって認知症?「何度も同じことを聞いてくる母」との上手な付き合い方

佐藤眞一(心理学者・医学博士)

2021年12月06日 公開 2022年03月03日 更新

 

CASE1:父親があまり外出しなくなり、趣味の碁会所にも行きません

Aさん(70歳/男性)の場合

父親の趣味は囲碁でしたが、近頃は碁会所にも行かなくなりました。「たまには出かけてみたら?」と水を向けても「うん」と気のない返事をするだけです。

Aさんは「出かけずに家にいるほうがラク」なのかもしれません。高齢になると「身支度が面倒」「頻尿や転倒が心配」「足腰が痛い」など、外出したくなくなる要因が私たちの想像以上にたくさん出てきます。

ご家族は、「親しい友人やお孫さんに誘ってもらう」など、Aさんが外出したくなるようなきっかけづくりを心がけてみると、本人の意欲を引き出すことができるかもしれません。

また、認知症に限らず、高齢になると誰しも一度に処理できる情報の量が少なくなります。複雑な情報処理ができなくなってくると、これまでできていたことができなくなることもあります。Aさんも碁会所で今までできていたことがうまくできなくなった経験をしたのかもしれません。

この場合は、複雑な情報処理をしなくてもできるウオーキングや植物栽培など、新たな趣味をはじめてみるのもよいと思います。

 

CASE2:母の物忘れがひどくなっている?どこからが認知症なのでしょうか?

Bさん(84歳/女性)の場合

母親とドラマの話をしていても「えーと、あの人誰だっけ? 顔は出てくるんだけど」と物忘れがどんどんひどくなっているように感じます。

Bさんの物忘れは、ドラマに出てくる人の顔などの記憶はあります。よって、「記憶は貯蔵できているけれども検索ができない状態」です。どちらかといえば老化の現象といえるでしょう。認知症の場合は記憶のメカニズムに障害が起こるので、「記憶の貯蔵そのものができない状態」になります。

たとえば、認知症の人は何度も同じことを聞いてくることがあります。この場合、認知症の本人は「何度も同じことを聞いていること」を覚えていないのです。何度も同じことを聞かれる人はイライラしてきて、つい「さっき答えたでしょ!」と怒ってしまいがちですが、できることならメモを渡すなど本人が確認できる方法で答えてあげるのも1つの方法です。

つまり簡単にいうならば、老化の場合は「思い出せない」で、認知症の場合は「覚えられない」ということになります。

 

CASE3:仕事を退職した父が急に怒り出すようになりました

Cさん(80歳/男性)の場合

今まで仕事一筋で生きてきた父ですが、退職してから急に怒り出すことが増えてきたように感じます。

そもそも「老い」とはプライドとの闘いです。老いて弱くなっていく自分と、人生を強く生き抜いてきた誇り高い自分、この2つの自分との間で気持ちは揺れ動き、不安定になるものです。そこで自尊心を守るために攻撃的になったり、他者を貶しめるような言動をとってしまったりするのかもしれません。

認知症の場合は、社会的な行動をコントロールする脳の前頭葉に障害が起きるので、怒りが抑えられなくなる、人が変わったように汚い言葉を使うようになることがあります。

このような場合、自慢話や苦労話を聞いてあげる、Cさんがこちらの世話をしようとしているときは本人がやりたいようにしてもらうなど、Cさんのプライドを尊重することが大切になります。また「相手がいるから怒る」ということもあるので、あまりによく怒るときは一時的に距離をとることも必要です。

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