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掃除と仕事は同じ~松下幸之助はなぜ掃除を勧めたのか



2017年04月06日 公開

渡邊祐介(PHP研究所経営理念研究本部次長)

 掃除はなぜ有効なのか

 掃除が行き届いて美しい状態であれば、だれもが清々しい気分になる。そして整理・整頓がすみずみまでなされていれば、仕事はムダなくより合理的に遂行されるはずである。ただ松下幸之助が掃除に対して認めていた効果はそれだけではなかった。掃除とはだれでもない、自分が実践するものだ。その“みずから実践する”ところに大きな意義を感じていたのである。

 松下は掃除が人の修養に役立つという信念を持っていた。ある講演で、掃除による辛抱が人を成長させることを訴えている。

  “ああ、冷たいなあ”と、寒中、氷の張るようなときに、雑巾で拭き掃除をするということは非常につらいことであります。しかし、こういうつらいことがやがて成功のもとになるんだと先輩が言うておる。こう考えると、辛抱ができるんです。辛抱できるからそのことが身につくんです。ただ、いやでいやでしようがないというだけであれば、その苦労は身につかないと思います。しかしそう言われているから辛抱する、辛抱するからその技術なり仕事が身につくんであります。そうすると苦痛が少なくなってまいります。苦労も少ないようになります。苦労が希望に変わってまいります。
 そうしてみると、1つの拭き掃除にいたしましても、拭き掃除はどうしてやるべきものであるかということが分かってくる。ただ雑巾をしぼってそして拭いたらそれでいいというんではありません。雑巾のしぼり方というもの、雑巾の水のしぼり方ということがまず第一に問題になります。ぼとぼとにしぼって拭いたほうがいいのか、からからにして拭いたほうがいいのかということが、自然に研究されると思います。やはりそこにはそこに適正な湿度というもの、しぼり方というもの、そういうものがあろうと思うんです。それによって拭くと、同じ拭き掃除でありましても、それが能率的であり、拭くものを傷めない。そして適当にほこりを取るということになるわけであります。そのコツが自然に会得される。

(1963年2月17日・大阪府技能競技大会における講演)

 ここで大切なことは、辛抱のはてに身についた技術が仕事の質の向上に繋がり、何事によらずコツをつかむヒントになっていくということである。

 今日、日常のなかで、掃除を何の目的でするのかと問う人はいない。掃除は人間が生活していく上で必要不可欠な行為である。だからこそ、いかに的確に遂行していくかが普遍的な修業となるはずだ、松下はみずからの経験を通してその意を強くし、さらに従業員にもそうした修業を課すようになった。

 大阪市北区(現在は福島区)大開〔おおひらき〕町で創業して以降、事業が順調に進み、工員たちを工場に住まわせるようになった頃のエピソードを、当時を知る社員は次のように語る。 

 毎晩、就寝前に所主(注・松下幸之助のこと)ご夫妻の寝室の前の廊下へ正座して「お先に休ませていただきます」とあいさつします。声がかれていれば「仁吉とん、かぜ引いてんのと違うか、暖うして寝えや」と注意されます。無精して立ってあいさつすると、必ず翌朝、女中さんから「昨夜、あの子無精して立ってあいさつしたと、奥さんが言うてはりましたで」と言われ、朝食もそこそこに逃げ出したものでした。
 掃除は順番にやることになっていましたが、始めて便所掃除の当番があたったときです。先輩の指示どおり四時に起床。便器の中までタワシでこすり、水洗いをして、これですんだと朝風呂に飛んで行きました。
 8時の朝礼がすんで帳簿を広げていると、所主が便所のところで呼んでおられるとのこと。行ってみると、「今朝、便所掃除はしたのか」とのお尋ねです。見ると、便所の立つところが泥で汚れています。というのは、前面の道路は舗装されてないので、水洗いしただけですと、靴や八つ割草履で持ち運んだ土が残って、泥だらけになったわけです。
 「便所の掃除も製品をつくることも同じだ。次の次のことを頭にいれて、仕事をしなければいけない」と、きびしく叱られました。

(森川仁八郎「私の思い出・きびしいが身についたしつけ」/遊津孟・監修『松下幸之助の人づかいの真髄』日本実業出版社、1977年)

  ここで松下は、具体的な説明として、掃除をうまくやるには、段取りが必要だということを指摘している。段取りが悪ければ仕事は完全にならない。この点において〝掃除と仕事は同質のものだ〟という見解を示しているのである。



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