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生き方

なぜ「恋人に見捨てられる不安」から逃れられないのか

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年03月08日 公開 2024年12月16日 更新

加藤諦三

人が信じられない人は、子どもの頃の成長過程に問題を抱えていると加藤氏は指摘する。そこに向き合わなければ、人は幾つになっても、仕事や家庭にトラブルが生じてくる。その成長過程で起こる問題とは何なのか? どうすれば、克服できるのだろうか?

※本稿は、加藤諦三著『不安をしずめる心理学』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

家に帰ると人が変わる

我々は共同体の中で成長していきますが、不安な人はその中の個人としては挫折しています。正常な発達ができておらず、自分は敵意の中にいると感じているのです。

そうした敵意の中で自分の安全を守るには、「自分はすごい」「とても強い」と、自分の力を誇示する以外に方法はありません。

他人に優越する他に、自分の安全を維持する方法がないので、内面に壮大な自画像のようなものを持って、それにしがみつくことになるのです。

こういう人は、当然のことながら心理的にはまったく成長しません。その一方で、社会的、肉体的には成長して40歳、50歳になり、会社であれば年齢相応に偉くなります。

ところが、家に帰ると人が変わります。奥さんに言わせれば「もう会社とは別人」のような状態になるのです。まさにスイスの法学者、文筆家であるヒルティが言う「外で子羊、家で狼」です。

優越を求める努力と、仲間意識を育成するのとは本来、逆のものです。優越を求めれば求めるほど、心の底のそのまた底では、孤独になっていよいよ不安が募ります。

不安な人は心理的に成長していないので、親なら親、あるいは周囲に対する依存心がとても強いという特徴があります。しかも、周囲に過度の敵対感情を持ってしまうことが多いのです。

どういうことかというと、依存心が強いので「こうしてくれ」「自分をこう扱ってくれ」「自分をこう褒めてくれ」など、相手にさまざまな要求をします。

ところが大人の世界では、そうした幼稚な願いがかなうことはありません。すると、そこにどうしても敵意が生じます。こういう人はなかなか素直になれません。

 

過去に囚われた自分に気づく

小さい頃に周囲の人に受け入れられないまま大人になった人は、幼い頃とは違う環境にいるのですから、まずそこに気づくことから、人格の再構成をスタートしなければいけません。

幼い頃とはまったく異なる環境で生きているのに、同じ感情のままなのであれば、それは心が過去にあるからです。

いまの出来事を現在のこととして見るのではなく、常に過去のビデオを見ているように、過去を再体験しているのです。

だから大人になって、実際には周囲の人に受け入れられているにもかかわらず、自分の中では受け入れられていないと思っているのです。それに気づかないと、こうした矛盾に一生支配されてしまいます。

不安という心理の現象や状態が、自分に当てはまる、あるいは周りの人に当てはまるとしたら、その人は幼い頃と大人になってからでは生きる世界が変わっているのに、自分は変わることができていないということです。

基本的安心感のない人は、拒否されて孤独になることを恐れるため、相手の顔色をうかがうことのほうが自分の欲求よりも重要です。孤独にならないように、相手に受け入れてもらえるように、本当はウサギなのに虎のような顔をして生きています。 

身体だけが幼い頃とは別の場所にいて、心は変わらず昔と同じ場所にいることに気づき変わらない限り、生涯、自分の感じ方は変えられません。

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敵意と不安の結びつきは強固

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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