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生き方

「いい人」を素直に受け入れられない進化論的な原因

石川幹人(明治大学教授)

2022年03月15日 公開 2024年12月16日 更新

「いい人」を素直に受け入れられない進化論的な原因

「物をたくさんくれる」「アドバイスしてくれる」「気持ちを察してくれる」――これらのことをしてくれる人は一般的に良い人だと見なされることもありますが、その一方で「なんだか見ていてイライラする」「なんとなく釈然としない」気持ちを抱く人もいるのではないでしょうか。

その理由は「人間の進化」と「現代社会」のズレにあると明治大学教授で進化心理学者である石川幹人氏は言います。いい人なのに嫌われる人が生まれる理由はなぜなのか?その理由を解説します。

※本稿は石川幹人著『いい人なのに嫌われるわけ』(扶桑社)より抜粋・編集したものです。

 

「いい人」にモヤモヤしてしまうあなたは悪くない

「人にものをあげる」 「人の気持ちに敏感で察しがいい」 「金銭感覚がしっかりしている」。どれも一般的には「いい人」の特徴とされています。

しかし、こうした人が身近にいる場合、時に煩わしさや付き合いづらさ、イライラした感情すら抱く人も多いのではないでしょうか。普通に考えれば、それらの行為は「いいこと」なのですから、そんな「いい人」に対してネガティブな感情を抱いてしまう自分はなんて心が狭いのだろう......そう思ってしまう人もいるでしょう。

しかし、安心してください。決してあなたの性格が悪いわけではありません。それは個人の心の度量の問題ではなく、ヒトが進化の過程で獲得してきた生得的な特徴と、現代の文明社会が求める要求が大きくズレていることが原因なのです。

この分野は、学術的には「進化心理学」と呼ばれ、提唱された1990年代以降、注目を浴びています。技術革新の目まぐるしい現代社会を生き抜き、さまざまな最新のITツールを使いこなしている私たちですが、その心理や身体的特徴の多くには、はるか昔の進化の過程で身につけたさまざまな様式が、根強く残っていることがわかってきました。

 

進化とは偶然起きた遺伝子の突然変異

ところで、サルの時代の遺物である尻尾が退化し、四つ足歩行をとっくの昔にやめたはずの私たち人類が、なぜ過去の進化の痕跡を今でも受け継いでいるのでしょうか。これを理解するためには、まず「進化」とはどういうことなのか理解する必要があります。

私たちがヒトとして進化する前の話を考えてみましょう。人間を含めたあらゆる生物は、プランクトンなどの原始的な生物から長い時間をかけて進化してきたことがわかっています。太古の時代の魚類の一部が、陸上で生活するうちに爬虫類になり、そこから一部は鳥類に進化し、さらに別の一部が、私たちの祖先となる哺乳類へと進化していきました。

この進化の過程についてはみなさんもどこかで聞いたことがあると思います。では、そもそもなぜ生物個体にこのような進化という改変が起きるのでしょうか。例えば、ヒトの子どもの誕生を見てもわかるとおり、遺伝子は親の個体からその子孫に情報がコピーされて引き継がれていきます。ですから、本来なら子孫は親が所有していたのとまったく同じ遺伝情報をそのまま反映しているはずです。

ところが、ときどきそこに異常事態が起きます。それが遺伝子の突然変異です。親から子へ遺伝子が複製されていく際に、なんらかの理由で複製にエラーが起き、遺伝情報が一部書き換えられてしまうことがあります。

これによって、親が所有しなかった遺伝情報を持つ子が生まれ、同じ種の中でも多様な遺伝情報を持つ個体が増え、その特徴に違いが生じていくのです。実は、この偶然の賜物である「遺伝子変異」こそが、進化の原因なのです。多様な遺伝情報を持つ生物個体が同じ環境にいると、限られた食料や移住地を求めて同じ種の中でも必ず生存競争が起きます。

このような状況下では、その環境で生存するのに有利な遺伝情報を持つ個体のほうが、より生き残りやすくなります。生き残るために有利な遺伝的特徴とは、「遺伝子自体が優秀かどうか」ではなく、「その場所で生きるのに有利に働く特徴かどうか」に左右されています。つまり、環境における偶然の変化で決まるのです。

一般的に、「生物が進化してきた」と言われると、その個体が自分の意思や何らかの努力によって、自主的に体の特徴を変えてきたのだと考える人もいますが、それは間違いです。

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「優秀な遺伝子だけが受け継がれる」は間違い

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