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未だ蔓延る「残業が評価」される風潮...最小の努力にこだわるべき本当の理由

大賀康史(フライヤーCEO)

2022年03月17日 公開

 

遅行指標を減らすには

健康的な食事をとることのように、長い期間を続けなければその成果が表れないとき、やるべき行動を続けることが難しいことがあります。本書では「遅行指標を減らす」という言葉で、その対処策が述べられています。

例えば、夕食の後片付けを子供に手伝ってもらいたいシーンがあります。これは一筋縄ではいきません。「トイレに行きたい」「宿題が溜まっているから」と一目散に逃げだしていくことが想像されます。紹介されている家庭では、ディズニーの名曲をかけて歌いながら後片付けをすることで、楽しく後片付けができるようになったそうです。

遅行指標を減らすためによく行われることは、自分へのご褒美です。その瞬間には成果が出ていなくとも、成果が出るまでの道のりをかなり進めたぞ、という日には好きな夕食を食べに行く、好きな映画を見る、というようなことです。長くかかりそうなことに取り組んでいるときは、近くにご褒美を設定しておく、という感じでしょうか。

会社経営、キャリア、投資など様々な領域で、すぐに成果を求めるあまり失敗する人が多い一方で、じっくり長期的に正しいことをし続けることにより大きな成果を出す人がいます。

以前に紹介したジェフ・ベゾスや、世界一の投資家と言われるウォーレン・バフェットはその代表格です。時間軸を自在に扱い長期的視点も持てることは、それ単独で大きな優位性なのです。だからこそ、長期の取り組みを楽しく行えるようにする、ちょっとした工夫が大切になります。

 

"エフォートレス思考"は日本のビジネスパーソンにこそ必要

本書の後半では、一生モノの知識を身につける、という章があります。つまり、一貫した原理を見つける、ということです。例えば、物体の移動や天体の移動などの肉眼でも見えるほとんどの事柄は、ニュートンがまとめた運動の3法則に従います。いわゆる、慣性の法則、運動の法則(運動方程式)、作用・反作用の法則の3つです。これをしっかりおさえれば、ほとんどの物体の移動が予想できるようになります。まさに一貫した原理と言えます。

少し本から離れて、一貫した原理という言葉に則したことがらを組織運営に照らして考えてみると、全体最適の追求が該当するように思います。まず、全体最適を取り続けることが難しい構造があります。会社の発展と個人の成長は一定の相関関係はあるといえども、それらが完璧に一致するわけではありません。

そうすると自分のキャリアのためだけに、会社の利益を犠牲にする行動をとってしまう可能性があります。その逆に会社の利益を重視するために、個人のキャリアが犠牲になる可能性もあります。

会社全体の利益と自分の利益が完全に一致している人はほぼいません。比較的一致している人をあげてみると、創業期の起業家、個人事業主、インフルエンサー、などでしょうか。おそらく大企業の社長、総理大臣、地域のリーダーでも、全体の利益と自分の利益の一致度合いは高くないように感じます。

その全体への貢献と個人のインセンティブのずれを少しでも調整できるものが、会社のミッション、ビジョン、バリューのようなソフトな制度と、厳格な指揮命令系統、人事評価、報酬体系などのハードな制度になります。会社の運営方針はそれぞれなので、その全てが必要なわけではありませんし、組織による好みや向き不向きもあります。その中で、より会社の理念や事業の特性と一貫性のある制度を選ぶことが大切になります。

そして、それは一度築き上げると、組織のDNAに刻まれ長期にわたって成果につながることから、エフォートレス思考の教えに従っているとも言えます。

最小の努力で最大の成果を出すエフォートレス思考は、もしかしたら日本のビジネスパーソンにこそ求められる思想なのではないかと思います。精神論が大切な瞬間もありますが、それが長期に持続する人は珍しい存在です。エフォートレスな構造ができていれば、一定の努力により最大の成果を出すという恩恵を多くの人が得られるのです。

本書では、身近な事例が多く掲載されていて、読みやすい印象を持ちました。エフォートレスという言葉が気になった方は、ぜひ一度目を通してみてはいかがでしょうか。

 

著者紹介

フライヤー(flier)

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