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くらし

哲学者になれず悩み苦しんだ? 古代ローマ皇帝の『自省録』に学ぶ“己を律する方法”

大賀康史(フライヤーCEO)

2022年06月09日 公開

 

流されやすい欲に打ちかつ

著者が自分自身の欲を制している文章が、ちょっと面白いので紹介します。

「肉の料理やそのほかの食物については、これは魚の死体であるとか、これは鳥または豚の死体であるとか、(中略)また交合については、これは内部の摩擦といくらかの痙攣を伴う粘液の分泌であるなどという観念を我々はいだく。」

格式高い文章で自己の俗な欲求を律している様子がシュールで、面白くすら感じさせます。おそらく著者も一人の人間であり欲求があるからこそ、思想をそこに適用しているのではないでしょうか。

このような表現をすると、何やら人のむき出しの欲望に従った行動がくだらないものに思えるから不思議です。

そして、望めばほぼなんでもかなえることができるだろう皇帝の立場で、人に伝えるでもなく自分へのメモで書き残していることが著者の誠実さを表しているようです。そしてストイックと言われるストア派の哲学者らしさを感じさせるものでもあります。

 

死とは何か

「その上また君自ら知っている人たちがつぎからつぎへと死んで行ったのを考えてみよ。(中略)だからこのわずかの時間を自然に従って歩み、安らかに旅路を終えるがよい。あたかもよく熟れたオリーヴの実が、自分を産んだ地を讃めたたえ、自分をみのらせた樹に感謝をささげながら落ちて行くように。」

諸行無常の世の中を生きることが、悠久の時間の流れにおいていかにかりそめであることか。そして死を自然に受け入れたいと願う価値観が表れています。

不老不死を求めるようなことを選ばず、長い歴史の中に自分の存在をそっとおいて去っていくような感覚でしょうか。オリーブの実のくだりは、文学作品の一節のように印象に残るものです。

また人生を苦難の連続ととらえる著者にとっては、死はそれらからの解放を意味していたようでもあります。人は過去と未来は所有しておらず、現在のみである。

そして死はその現在を失うに過ぎないという記載もあります。そう言われてみればその通りです。何かにあらがうでもなく、周りに感謝をして死を迎えるようなスタンスを取りたいものです。

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人生の意味

著者紹介

フライヤー(flier)

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