依存心は「精神の肥満」
自信を回復するためには、まず自分を他人に印象づけようとすることをやめることである。
虚勢を張りたくなったとき、自分に次のようにいいきかせることである。自分はより不安定な気持ちになりたいのか、それとも自信を得て安心して生きたいのか、と。
自慢話をしたくなったときも同じである。ポケットのなかに2つのカードを入れておく。
1つには、「より自信のある自分へ」、もう1つには「より不安定な自分へ」と書いておく。自慢話をしたくなったら、必ず「より自信のある自分へ」というカードを引いて、自分の弱点に勝つことである。
自慢話が習慣化すると、自慢話をしていないと不安になってくる。そして自慢話をしないでは他人とつきあえなくなってくる。
つまり自分の無価値感をより強化してしまうのである。40歳、50歳、60歳と年をとり、いつのまにか、この自分の無価値感を自分のなかに凝り固めてしまった人もいる。
煙草の習慣をやめることに世間は熱心である。それは煙草の喫いすぎが肉体的健康を害するからであろう。
しかし世の中の人のなかには案外、精神的健康を害する習慣には無関心な人がいる。
われわれは肉体的なことになるとコレステロールが増えるとか、血圧が高くなるとか注意をする。そしてこれ以上コレステロールが増えないように、と食餌療法をする。
ところが、これと同じだけの注意を精神面に払っているだろうか。肉の食べすぎはいけない、肉を食べたら野菜を必ず食べる、などと注意する。
そしてこれはたしかによいことである。だが同時に、精神面にも注意をしたいものである。
他人を冷笑する、などということは血圧と同じく注意すべきことであろう。糖尿病になるのを防ごうと食餌療法するのと同じように、自信喪失を防ごうと言い訳をやめることにも注意すべきであろう
大酒がやめられなくて肝臓をこわすように、嫉妬から他人を非難するのがやめられなくて、ものごとに感動する能力を喪失してしまうこともあろう。
消化管に異常はないか、胃に異常はないか、十二指腸に異常はないかと気をつけるのと同じように、自分の自発性に異常はないか、自尊心に異常はないか、考え方の柔軟性に異常はないか、などと考えてみることであろう。
過度の肥満は万病のもとという。だから人々は肥満にならないように運動をし、食餌療法をする。依存心は精神の肥満であろう。
ところが、肥満をあれだけ恐れるビジネスマンが、同じように依存心を恐れていない。
ジョギングをして汗を流し肥満を防ぐのと同じように、自分のことを自分で判断し独立心を養おうとしなければならないであろう。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。