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社会

文系出身が物理学者に聞いて驚いた「物理学者の習性」

深井龍之介(COTEN代表)、野村高文(音声プロデューサー)

2022年07月15日 公開

 

物理学者の傲慢さと謙虚さ

【深井】僕の中で物理といえば、前者のイメージでした。たとえば、自分の体も原子で構成されているじゃないですか。原子ってスカスカだと思うんですけど、原子が集まってできた体を触ることはできますよね。

「じゃあ触るってどういうことだ?」という問いが浮かんできて、それは哲学にもつながってきます。近世だと、物理学者や数学者が哲学者を兼ねることもありましたし。だからこそ、物理学と社会科学が似ていると思ったんですが、それとは反対の、物性物理というジャンルがあるんですね。

【北川】深井さんのイメージは「ファーストプリンシプル・シンキング(第一原理思考)」から来ているんでしょうね。すべてのものごとを原理原則から理解しようとする、物理学における考え方の1つです。

聞いた話をうのみにせず、すべてを疑って「なぜ? なぜ?」と自分の頭で必ず理解しようとするから、問題がどんどん小さくブレイクダウンされていく。ミクロな世界に降りていくイメージですね。

じゃあ、単純にミクロを組み合わせればマクロが理解できるのかというと、そうはならないことが多いんです。ミクロからマクロへ至るまでの過程で、難しい現象があると理解されたのは、戦後になってからのことです。

最初はミクロの世界だけが物理学だと思われていたけれど、マクロの世界も同じように物理学としてとらえなければいけないというのが、現在の認識です。

【深井】そうなんですね。

【北川】深井さんの言うように、どうして物理学者が哲学的になったかというと、ルネサンスがきっかけだったというのが、僕の仮説です。

ルネサンスは、それまで神への信仰が行き過ぎていたことに対する人間回帰ですよね。「人間も、意味のあるものを生むことができるんだ!」と、学問や文化が花開いた。

当時、デカルトは神の存在を証明しようとしましたが、証明とは疑いようのない事実を追い求めることです。そうやって事実を追い求めた結果、哲学から物理学が生まれ、ものごとをブレイクダウンして考える癖がついたんじゃないかと。

【深井】やっぱり物理学は、哲学から派生したと考えていいんですね。

【北川】もちろん、それは間違いありません。

今までは神に寄りかかって生きていればよかったのが、そうじゃなくなった。そこで、人間が拠って立つものとして神の代わりに見いだされたのが、物理学などの「疑いようのない事実」だったんじゃないでしょうか。

これは、冒頭で話した指導教官の「物理学者がやることはすべて物理だ」という言葉につながってきます。物理というのは分野ではなく、哲学で規定されるものだという考え方が、根底にあるんだと思います。

ですから物理学者とは、「できる限り、考えることをすべて物理にするんだ」という少し傲慢な姿勢と、「何でも理解したい」という謙虚な姿勢が、同居する存在なのかもしれません。

 

「わかること」はおもしろくない

【深井】なるほど。物理学者の「何でも理解したい欲求」には、すさまじいものがありますよね。「世界を1つの数式で表したい」という人もいるじゃないですか。

【北川】それは「統一理論」ですね。彼らも含めて、僕たち物理学者は何がおもしろいかというと、わからないことがおもしろいんです。

【深井】わかることがおもしろいんじゃなくて?

【北川】いや、わかっていることはつまらないです。

【野村】すごい考え方ですね。

【北川】その証拠に、学者の評価は被引用数、つまり他の論文に引用された数で決まります。日本人はあまりやりませんが、学者の評価を見たいときは、まずは「Google Scholar(グーグルスカラー)」で引用数を見る。そのとき、すでに解決した問題では、引用されません。

【深井】まだ疑問が残っていて議論の余地があるから、引用されるのだと。

【北川】そうです。新しい問題を解こうとしている人たちに引用されるということは、新たな問いを作ったということ。さっきの統一理論に取り組む物理学者でいえば、「統一できないこと」に興奮しているんです。

【深井】おもしろい! 歴史を勉強しながら「すべてを理解できる」という人間の傲慢さを感じていたんですが、それは傲慢さだけじゃなくて、わからないことに対する興奮でもあったんですね。

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物理学者が「この世界を作ったのは神?」と考えたくなる理由

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