駐車場にも引かれた県境ラインがそのややこしさを物語る
駅や商業施設を貫通する境界線、3つの県が集結した「三県境」...。世の中には知られざるマニアックな県境が少なからず存在する。
100を超える県境スポットを実際に訪れ、そのややこしくも興味深い裏事情とともにまとめた書籍『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』から、全国的にも珍しい「イオンモールの中にある県境」についての一節をご紹介したい。(写真:田仕雅淑)
※本稿は、田仕雅淑著『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。
イオンのフロア内に県境?
ショッピングモールの床に派手な装飾で県境のラインが引かれている(筆者による絵)
県境を巡っていると、ふとこんな疑問が浮かぶようになる。「もし隣り合うお店が違う県に建っていたら、一体どうなるのだろう?」県境に関心をもつ多くの人が思うことではないだろうか。
隣り合うお店が違う県だとしたら、電気や水道はどちらから引いているのか? ゴミも別々の自治体に出すのか? 電話番号は? 税金は? 等々、考え始めるとさまざまな問題が出てくる。県境というものはこのような面から見るとなかなか厄介である。
隣り合っているだけなら個々のお店が対処すれば良いが、それが一つの施設だとしたらどうだろう。諸問題をクリアする労力を考えると、県をまたいで施設をつくるというのはできるなら避けたい、というのが事業者と行政の本音かもしれない。実際、県境をまたいでいる施設は全国を見渡してもそれほど多くはない。
そう、多くはないだけで、ない訳でもない。ここ「イオンモール高の原」は、例外的に県境をまたいだ大型商業施設である。
近鉄京都線高の原駅を降りて跨線橋に出ると、すぐに巨大な建物が目に入ってくる。イオンモール高の原はショッピングモールとしては珍しく、駅から徒歩1分という好立地にある。敷地面積4万7千㎡、延べ床面積12万5千㎡を越え、地下と屋上駐車場を含めた全6層に百数十店舗もの専門店が入り、広大なフードコートや映画館もある一大商業施設だ。
大きな建物の中に県境があるというだけでも希少だが、ここがマニアの間で「県境の聖地」ともいわれる理由はそこだけではない。なんとフロアに京都府と奈良県の府県境が描かれているのだ。それもメインフロアだけではなく、地平と屋上駐車場も含めた全フロアにである。