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「性自認」がジェンダーを決める国もある... 文化人類学で考えるLGBTQ

奥野克巳(文化人類学者)

2022年08月22日 公開

 

「性自認」が重視されるブギス社会

インドネシアのジェンダー

ブギスはこのように「女の心」を持つという「性自認」によって、男性から女性の領域へと出入りするわけです。逆に、ブギス社会では性自認が、その人のジェンダーを決める要因になっている、とも言うことができるでしょう。

生物学的な性がオスであり、性自認もまた男性だとするならば、ジェンダー的には男性、ということになります。性指向、つまり性の対象は女性になります。反対に生物学的な性がメスであり、性自認が女性ならば、ジェンダー的には女性となり、性指向は男性です。

チャラバイの場合は、生物学的な性はオスですが、性自認としては女性です。ジェンダー的には女性であり、性指向は男性となります。

また生物学的にはメスですが、性自認は男性の場合、ジェンダー的には男性となり、性指向は女性、という人々は、「チャラライ」と呼ばれます。これが、第4のジェンダーです。

ブギス社会ではジェンダーは自由に変えられると考えられてます。というのも、例えば、男性が、チャラバイが行う結婚式のビジネスの職に就くために、チャラバイになるということがあるからです。逆にチャラバイは、女性と結婚して家族を作ることになったら、男性に戻ることもできます。

さらに、ブギス社会では「第5のジェンダー」として、両性具有者が位置づけられています。実際に両性具有の身体を持っているのかは分かりませんが、男性が女性の格好をして、宗教的な職能者として活動しています。

このような、いわゆるシャーマンと呼ばれる人々が異性装することは、他の社会・文化でもよくあることです。

 

ジェンダーが交替可能な社会

日本では性別と性自認のずれが生じるトランスジェンダーの人たちは、しばしば「性同一性障害」と名指される傾向があります。そして、その解決としては、不可逆的な性転換手術に委ねられる場合が多いと言えるでしょう。それは医療の対象とされるわけです。

ところが、ブギス社会ではジェンダーは交替可能なものとされています。ある男性は、女装し女のしぐさ、振る舞いをすることで、思い立ったら今日からでもチャラバイのコミュニティに入り、暮らしていくことができるのです。

反対に再び男性に戻りたいと思ったら、また男性の格好に戻り、男性の振る舞いをして、男性として生活していくことも可能です。

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人間は文化も性別もつねにすでに自由で豊かだ

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