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くらし

「どうしてもやる気が出ない人」が抱えている無気力感の正体

渋谷昌三(目白大学名誉教授)

2022年10月26日 公開

 

「何もしたくない」無気力状態からの脱出法

酒を飲んだり、やけ食いしたり、遊び回ったりしても、無気力感から脱出できないときがあります。「何もしたくない」とか「何をしても、どうせうまくいくはずがない」と、無気力になったとき、どうすればいいのでしょう。

(1) 成功経験を利用した治療法

こんな心理実験があります。「これから不快音を流しますので、自分で工夫して、その音を止めてください」と指示します。実は、かなり複雑な手続きを経ないと、この不快音は止まらないように細工されていたのです。

不快音を聞いた人は、なんとかして、その音を止めようと努力します。ところが、いろんなダイヤルをあれこれ動かしても、どうしても止まりません。そのことがわかると、多くの人は学習性の無気力感に陥ります。つまり、不快音を止めようとしなくなってしまうわけです。

そのあとで、無気力感に陥った人に、今度は、別の課題で成功経験をしてもらいます。成功経験は、人によって、1回から12回繰り返し行われました。こうした成功経験をしたあと、最初にやった「不快音を止める」作業をもう一度やってもらいます。

そうしたところ、12回の成功経験をした人が、最も短時間で、不快音を止めることができました。それと同時に、抑うつ気分が解消したのでした。

成功経験が多かった人ほど、「今度こそ、不快音を止めてやろう」と意気込んで再挑戦したわけです。

失敗続きで、無気力になったら、別の簡単なことをやって、繰り返し成功経験を味わいましょう。そうすると、やる気がよみがえり、抑うつ的な気分から解放されるはずです。そして、成功経験回数が多いほど、その効果は大きくなるでしょう。

ただし、競馬、競輪、パチンコなどのギャンブルやトランプなどで連勝しても、成功経験の効果はないかもしれません。

(2) 失敗の原因についての考え方を利用した治療法

たとえば、業績が上がらないとき、「自分には能力がないから」と考えている人に、「自分の努力が足りないから」と、失敗原因についての考え方を変えさせる方法です。

学業不振児を対象にした心理実験があります。このような子どもに、やさしい問いとむずかしい問いが混ざっている問題を解かせます。当然のことですが、やさしい問いは解けますが、むずかしい問いには失敗します。

むずかしい問いが解けなかったとき、「できなかったのは、努力が足りなかったせいです。もっと一生懸命やれば、きっと解けるはずです」と、励まします。

こうした訓練を繰り返したところ、解けない問いがあっても、投げださずに、根気よく取り組む子どもが増えたのでした。その結果、実際に、多くの子どもの成績が向上したのです。

解けない問題にぶつかったとき、「これは、もっと努力しろということかな」と、独り言を言って、がんばる子もいたそうです。こうなれば、しめたものです。ごく自然に成績がよくなってくるという次第です。

思うようにことが運ばなかったとき、自分には能力がないと考えないで、「努力が足りない、努力が足りない」と自分を励ましたらどうでしょう。

 

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