ハーバード大学で実践されている 「好機を逃さない方法」
2018年06月07日 公開 2023年03月01日 更新
思い通りにならなければ次の機会を待つ
のちのモハメド・アリことカシアス・クレイは、白人の子どもたちが黒人ミュージシャンの曲を聞きはじめていること、年齢層により考え方に大きな隔たりが出てきたこと、エミリー・ポストやジョン・ウェインが示してきた気品のある世界というものが変わりはじめていることに誰よりも早く気づき、キングと同じように好機を活かした。
誰から見てもセクシーで、自慢屋で、相手の心理を揺さぶるトラッシュ・トークの生みの親にして、平和運動家に転身したボクサー、そして世界初の(そして世界で唯一の)皮肉屋のプロボクサーであるモハメド・アリの登場に向けて、機は熟していたと言えよう。
モハメド・アリは、1960年代前半の中産階級のディコーラム(適切さ)ともいえるものを見事にぶち壊した。
彼が成功したのは、好機をとらえるボクサーの勘とエンターテイナーとしてのディコーラムの両方を備えていたからだ。ケンタッキー州で満足な教育も受けられずに育った黒人が、この地球上で一番恰好いい男になったのである。
アリほどの深みはない話だが、大統領時代のビル・クリントンが、ホワイトハウスでニューハンプシャー州の民主党員らに向けてスピーチをしているのを見たことがある。
クリントンは彼らのことを偉大な政治的盟友であると述べたが、実は彼は、1992年の予備選で、最初の開票地であるニューハンプシャーを落としていた。ニューハンプシャー州の民主党員は、クリントンではなく、マサチューセッツ州出身の無名の議員ポール・ソンガスを選出していたのである。それでもくじけなかったクリントンは、世論調査で巻き返し、次の州からは勝利を収めはじめた。
クリントンは、すべての始まりは小さなニューハンプシャー州だった、と述べた。実に前向きな姿勢だ――勘違いといってもいいほどに。このストーリーの最後には、好機を活かすことにまつわる教訓がある。自分の思いどおりの決定がなされなかったときは、説得できる次の機会を待てばいい、ということだ。
クリントンは、予備選挙が行われる土地から土地へ、飛び回った。ニューハンプシャー州の次は南部に向かった。聴衆を換えれば、次は説得できるはず、というわけだ。マーケティング担当者もこれと同じように、説得できる聴衆を探すために、何百万ドルという資金を投入する。
残念だが、あなたや私はいつもそんな贅沢ができるわけではない。たいていの場合、聞き手は決まっていて、あなたがその聞き手を説得したいなら、好機を待たねばならない。
だが、いつも待たなければならないわけではない。「いいタイミングを捉えること」は好機の要素の半分でしかない。では、もう半分は何かって? それは「手段の選択」だ。
※本記事は、ジェイ・ハインリックス著『THE RHETORIC 人生の武器としての伝える技術』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。