自業自得――末期ガンの猟師へネットユーザーが投げつけた言葉【幡野広志】
2018年12月04日 公開 2018年12月04日 更新
そして鉄砲を捨て、カメラを息子に向ける
数年前、狩猟中に山で遭難しかけたこともある。
経験と知識と体力と、何もかもが不足していたのが原因だった。
もともとない体力をどんどん消耗し、太陽も徐々に傾き、とにかく下山しなければと焦っていた。ずっと妻のことだけを考えて、心の中で謝っていた。
そのとき僕は荷物を軽くしようと、必要のないものを山に捨てた。
迷いもせずまっさきに捨てたのは、カメラ。
大切なのは写真であってカメラじゃない。
下山途中に鹿がいたので撃った。若いオスだった。肉を持ち帰る余裕なんてなかったのに、僕は獲った。
お腹をあけてレバーと心臓と背中のロースだけ剥ぎ取り、血を手ですくって恐る恐る飲んでみると、驚くほどおいしかった。それで折れかけた心が復活して、僕は無事に下山できたのだ。
迷いもなくカメラを捨てたことと、あのときの鹿の命は今でも忘れられない。
ガンと診断されて自殺が頭をかすめたとき、いちばん最初に処分しなければと思ったものが鉄砲だった。
あのとき命をつないでくれた鉄砲が、邪魔になっている。
僕は鉄砲を処分し、狩猟をやめた。今は、息子を撮るカメラが、僕の思考を助けてくれている。