被害が拡大する前にすぐに離脱する
だから逆境に弱い人の特徴は何度もいうようにリアクティブなのである。
もう一つは、あの人はああいう不誠実な人で、自分がどのように騒いでも、それで何か事態が改善されるわけではないと、今の事態を受けいれる。
受けいれるということは覚悟するということである。
受けいれなければ、貴重な人生の時間を不愉快に過ごし、その不誠実な人から受けた被害を拡大するだけである。そう思って、あの人から離れる決心をする。
そこで受ける被害はもの凄いものである。しかしその被った被害を受けいれなければ、被害はもっと増える。
プロアクティブ(起きたことに対処する意志がある)になるということは、この追い詰められた事態に、自分の方から働きかけるということである。この最悪の事態に怒りで反応するだけではなく、この事態に対応できる自分に自分を変えていくことである。
この事態は自分に何を教えているのか。この事態から何を学べるのか。そう考えるのがプロアクティブな人である。
相手が不誠実な人と分かった時点からの自分の言動を反省してみる。
周りの人をよく観察してみるがよい。エネルギッシュな人は、皆プロアクティブであって、リアクティブではない。
プロアクティブな人は、いつまでも愚痴をこぼしていないし、いつまでも怒っていない。繰り返し、繰り返し同じ被害の話をしていない。
一度不誠実な人に舐められて酷い目に遭った怒りはなかなか消えない。
その怒りから離れられないのが、リアクティブな人である。その不誠実な人から気持ちが離れられるのが、プロアクティブな人である。
不誠実な人に心が囚われる。心が麻薬に占拠されるように、不誠実な人、ずるい人に心が占拠されてしまう。他のことは考えられない。
それがリアクティブな人である。
とにかくリアクティブな人は、何もしない、ただ歎いている。
私は『悩まずにはいられない人』という本をPHP研究所から出版した(2105年)。この「悩まずにはいられない人」がリアクティブな人である。
とにかくリアクティブな人はトラブルに対処しない。だからただ悩んでいることだけが救いなのである。
カレン・ホルナイが悩んでいる人にとって最大の救いは悩むことであると言ったように、悩んでいることが一番心理的に楽なのである。
もう、起きたトラブルに対処するエネルギーはない。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。