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進化しながら生き延びる「雑草」に学ぶ、“VUCA時代”の成長戦略

稲垣栄洋(生物学者・植物学者)

2020年11月28日 公開 2023年03月02日 更新

雑草の両掛け戦略

ビジネスの成功のためには、テリトリーを広げ「事業を拡大する」ほうが良いのだろうか。それとも、今あるテリトリーを守り「事業を強化する」ほうが良いのだろうか。

雑草の中にもテリトリーを広げることを優先する陣地拡大型と呼ばれるものと、今、生えている場所での競争力を重視する陣地強化型と呼ばれるものがいる。「どちらの戦略が良いだろうか?」という設問自体が愚問である。どちらが良いかは、その時と場合によって異なる。

植物には、自分の花粉を自分のめしべにつけて種子を作る自殖と、他の個体と花粉を交換して多様性を維持する他殖という二つの繁殖様式がある。

雑草の多くは自殖も他殖もできる。花粉を運ぶ昆虫がいる環境では、他殖を目指すが、昆虫がいない環境では自殖を行って確実に種子を残すのである。

もし、これが決められた環境であれば、どちらが有利という正解はある。しかし、雑草が生えているのは、常に予測不能な変化が起こる環境である。

予測不能なのだとすれば、どちらが有利かを論じること自体に意味がない。このように、雑草は二者択一の問題に対して、どちらかに絞るのではなく、どちらも準備するという方法をとることが多い。

この雑草の戦略は「両掛け戦略」と呼ばれている。「戦う場所は絞る。しかし、オプション(戦う武器)は捨てない」これが、予測不能な変化を生きる雑草の戦略なのだ。

 

GAFAの雑草戦略

GAFAと呼ばれる急成長している巨大企業がある。アメリカ大手資本のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルは、その頭文字を取ってGAFAと呼ばれている。

それまでの強者と呼ばれる大企業の戦略は、力で相手をねじふせることであった。力と力の戦いになれば、負けるはずがないのだから、できるだけ相手に変な小細工はさせずに正面から戦いたいのだ。

一方、GAFAの戦略は少し違うようだ。GAFAは他企業に追随するのではなく、トップランナーとして「未来」をイメージさせる新たな挑戦に取り組む印象がある。

例えばアマゾンは、ドローンによる荷物の空路配送や空飛ぶタクシーの技術開発に取り組んでいる。また、自動決済によるレジなし無人スーパーもアマゾンの取り組みの一つだ。

大企業は、安定を求めるから、成功の可能性があっても、失敗するリスクがあるものには挑戦しにくい。しかし、アマゾンは成功するか否かを予測するよりも、小さな可能性に対して投資していく。

そして少額の投資で失敗すればすぐに撤退する。こうして、失敗を繰り返しているのである。その結果、芽生えた雑草の苗が、AWS(アマゾンウェブサービス)といったクラウド事業やアマゾンエコーなのである。

失敗することを恐れずに、失敗することを前提として、小さなコストの小さな種子をたくさんばらまく。まさに雑草の戦略だ。

GAFAは大企業でありながら、常に挑戦をし続けている。そしてたくさんの失敗の中で、大きな成功を収める。小さな挑戦を続け、変化し続ける。これが予測不能な時代に大きな成功を収めているGAFAの戦略である。

 

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