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「育成上手の上司」はどんな表情で部下の話を聞いているのか?

渋谷昌三(目白大学名誉教授)

2023年01月23日 公開

 

状況によって表情を変える

営業などの場面では、第一印象が重要だといわれます。最初の印象がいい人のほうが好感を持たれ、お客様に買っていただける可能性も高まります。最初の印象の悪い人は、それだけで損をしてしまいます。

しかしながら、職場の人間関係のように、長期間にわたって付き合っていく関係においては、逆もまた真となります。

心理学には、「ゲイン効果」「ロス効果」と呼ばれるものがあります。

初対面で会話を始めた初期段階では、相手と視線を合わせたり、うなずいたりしないようにします。

そして、会話の途中から視線を合わせていき、うなずくようにすると、会話の最初から視線を合わせて、うなずいていた人よりも、好感が持たれ、温かい人物と見なされる傾向が見られるのです。これは「ゲイン効果」と呼ばれています。

反対に、初めからずっと視線を合わせて、うなずいていた人が、途中から視線を合わせなくなったり、うなずかなくなったりすると、好感度が下がってしまいます。これは「ロス効果」と呼ばれています。

ゲイン効果は、国際会議の場などではよく利用されています。各国首脳は、自国のために交渉しなければならないわけですから、最初から相手国の言うことにうなずいたりはせず、ときには厳しい表情を見せたりします。

その後、いくらかの合意点が見出されてからは、相手の言うことにうなずいたり、笑顔を浮かべて、温かい表情を見せたりします。このようにすると、相手国の首脳からの印象はとても良くなるのです。

逆に、初めはニコニコとしながら、交渉後に不機嫌な顔をしていては、相手国の首脳に好感を持ってもらうことはできません。それは次回の交渉にも響いてきます。

職場の話に戻せば、部下との付き合いにおいては、初めは「厳しい、嫌なリーダー」と思われていてもかまわないのです。

徐々に温かい態度を見せていったほうが、初めから温かい態度を示すよりも、ゲイン効果で好意を持ってもらえる可能性があります。

 

「最適な空間」で相談に乗る

部下からの相談を聞くときには、どんな空間で、どんな位置で話を聞くのがいいかを知っておくと便利です。

項目で述べたように、人間は他者との間に、さまざまな空間を持っています。親しさによって、その空間距離は変わってきます。

親しい人との距離は近くなり、疎遠な人との距離は遠くなります。一定の空間を保ち、適度な距離をとりながら生活をしているのが人間です。

部下から相談を受けるときには、相談の内容によって距離を変えてみるべきです。企画内容の相談など一般的な仕事の話であれば、120~360センチくらい(ビジネス・ゾーン〈社会距離〉)が適当です。

デスクをはさんで向き合ったり、会議室などでテーブルをはさんで座ったりすれば、このくらいの距離になります。

部下の話が少し深刻になりそうな場合や、プライベートな内容に関する相談の場合には、もう少し距離を近づけてみたほうが、よりホンネを話してもらえます。

最初は会議室で話していても、もう少しリラックスした場所として、ソファーのある応接室に移ったり、喫茶店に出て話を聞いたり、終業後に食事をしながら話を聞いたりしてもいいでしょう。

喫茶店などに行けば、部下との物理的距離は縮まり、おそらく120センチ以内になります。

この距離は、個人ゾーン(個人距離)といって、個人的な話をするときの距離です。部下が個人ゾーンに入ることを受け入れてくれたのであれば、きっとホンネも話してもらえるでしょう。

このように、相談内容によって、適切な距離になるように設定すると効果的です。

相談を聞くときには、座り方にも配慮しましょう。通常、相談を聞くときの座り方は、斜めの位置に座るか、正面の位置に座るかですが、狭い居酒屋などでは、隣同士に座ってもいいかもしれません。

相談を聞くときに絶対に守らなければならないのは、プライバシーです。できるだけ他人に話の内容が聞こえないような部屋で相談を受けるという配慮も必要です。

 

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