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精神科医が「悩みたいだけ悩む」ことを勧める理由

西多昌規(精神科医)

2022年12月27日 公開

 

脳も悩み続けることに飽きてくる

人間、好きで悩んでいるわけではないと思うのですが、果たしてそうでしょうか? まじめな性格の人は、いろいろ考えたい、あれこれ検討して分析したいという欲求があるのではないでしょうか。

「悩みたいから、悩む」というときも、人間にはあるものです。そしてそのときは、悩まないようにとムリに頑張らず、悩むにまかせたほうがいいと思います。

理論的には、何十時間、何カ月悩んだところで、時間のムダということになるでしょう。あるいは、「いくら悩んだって、結論は同じ」という、ドライな見方もあります。

しかし、悩みたい人も、そんなことはとっくにわかっているはずです。わかってはいるけれど、だれにもじゃまされずに悩みたいときが、人間にはあるのです。

人間がものごとに向ける「注意」「集中」といった脳機能には、自ずと限界があります。10時間も休憩なしのぶっ通しで、仕事や勉強ができる人はいません。

1つのことを長時間続けることは、できないようになっているのです。つまり、「悩みたいだけ悩む」のにも限界があるということです。

「もういくら考えてもムダかな」と、悩むことに飽きてくれば、気持ちも落ち着きます。まして、「うまいラーメンでも食べたくなってきたな」など、悩みのテーマと違うことが頭に浮かぶようになれば、しめたものです。

脳が飽きてしまうくらいまで悩み抜くことも、「引きずらない」ためには必要なことだと思うのです。

 

悩みに対する答えは自ら出す

カウンセリングを希望してくる人の中には、今の悩みに対する答えを知りたがる人がいます。でも、カウンセラーは相談者の悩みの答えを出したり、解決策を提案するわけではありません。まして占い師のように「こうすれば必ずうまくいきます」と指示を与えることはありません。

相談者の話をじっくり聞き、相談者自身が解決法を見出す、あるいは自分で処理するのをお手伝いするのが、カウンセリングの本来のあるべき姿だからです。答えを与えてばかりでは、いつまでも相談相手がいないとダメな、自立できない人になってしまうでしょう。

とことん「引きずる」のは、言ってみれば海や谷のいちばん深い底に落ちるようなものです。あとは這い上がるしかありません。

「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」という内容の格言が、世界中の多くの地域にあるそうです。魚を1匹やれば1日食いつなぐが、魚の釣り方を教えてやれば一生食いはぐれることはない」という意味が込められています。

とことん「引きずる」ということは、魚の釣り方を学んでいるようなものかもしれません。ときには、悩みの答えを外に求めるのではなく、自分自身でとことん向き合ってみることです。それでストレスとのつきあい方を学べれば、一生使える財産になるのです。

ストレスとは、一生つきあわなければならないのですから。

 

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