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精神科医が「悩みたいだけ悩む」ことを勧める理由

西多昌規(精神科医)

2022年12月27日 公開

精神科医が「悩みたいだけ悩む」ことを勧める理由

人間関係や仕事の問題...多くの人が孤独に悩みを抱えています。不安や孤独を軽くするには、どうしたらいいのでしょうか。精神科医の西多昌規さんが、上手に悩みを処理する方法を紹介します。

※本稿は、西多昌規著『引きずらない人の習慣』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。

 

連帯感が不安や孤独を軽くする

自分と同じ悩みで苦しんでいる人を見ると、「自分だけじゃないんだ」とほっとするものです。自分と同じような人がいるとわかると、孤独感が薄れるからなのでしょう。

からだやこころの病気でも、同じ病気の患者さんで集まる、あるいは患者さんの家族が集まることで、病気についての情報交換ができるだけでなく、連帯感が生まれ不安や孤独が多少なりとも軽くなることがあります。

友達にグチる、悩みを聞いてもらうという方法もありますが、相手がどれだけ共感してくれるかはわかりません。過去に大失恋の経験のない人ならば、失恋のグチを言ったところで、「新しい恋人を見つけたら、元気になるよ」などと、軽く返されてしまうかもしれません。

グチをこぼせる相手でなくてもいいので、自分と同じ悩みを経験した人を探すのも、悩みを軽くして引きずらなくさせる良い方法です。「自分だけじゃない」という孤独・孤立感がなくなるだけでも、かなり違うのです。

わたしも、診察の合間に患者さんに自分の経験談を話すことがごくたまにあります。失恋の思い出などはめったに話しませんし、会社を潰したとか大病を患ったとか、そういう大きなエピソードはわたしには今のところまだありません。

ただ、いろいろあって眠れなかったなど、個人的なことをちょっと話すだけでも、「先生もそんなことがあったんですね」と、安心の表情を浮かべる人が少なくないのです。

 

「自分だけではない」と確認できると、悩みは軽くなる

著名人がガンの闘病を宣言すると、同じガン患者の人は励まされます。倒産から這い上がった社長さんの苦労話で、元気を取り戻す人もいるでしょう。同じつらさを経験した人がちゃんといるというだけで、「つらいのは、わたしひとりではない」と勇気が湧いてきます。

冷静に考えれば、人間関係や失恋など人の抱える悩みというものは、万人共通のはずです。ところが、悩んでいると「こんなことに苦しんでいるのは、自分だけではないか」と思い込んでしまい、ますます孤独になって、自力での修正が利かなくなるのです。

自分と同じ悩みを経験した人を、探してみましょう。

タレントさんのような著名人ならば、エピソードをオープンにしている人がかなりいるものです。しかしできるならば、テレビで見るような人よりも、あなたのまわりにいる、実際に顔を知っている近しい人が理想です。

そういった深い話は、やはり昼間の仕事中よりも夜に酒を酌み交わして、というほうが聞き出しやすいかもしれません。

わたしの個人的な経験でも、夜の飲み会などで、上司や先輩からポロッと出た経験談や弱音は、「ああ、この人も同じ悩みがあったんだ」というスッキリした安心感が得られたせいか、20年近く経つ今でも記憶に残っています。

こう書いていくと、コロナ禍によるコミュニケーション減少が、メンタルヘルスの悪化と関連していることも肯ける気がします。

悩みを「引きずらない」ためには、自分ひとりの力だけではどうにもなりません。かといって他人が助けてくれるわけでもありません。ただ、「自分だけではない」と確認できるだけでも、悩みの程度はずいぶん違ってくるのではないでしょうか。

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