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「30代中盤からは、チーム内で話さない方がええ」堀江翔太が悟ったベテランの役割

堀江翔太(ラグビー選手)

2023年09月18日 公開 2024年12月16日 更新

「30代中盤からは、チーム内で話さない方がええ」堀江翔太が悟ったベテランの役割

堀江翔太選手は、パナソニックやサンウルブズで、キャプテンとして手腕を振るい、ラグビー日本代表ではベスト8に貢献するなど、日本ラグビーを一つにまとめあげたベテランだ。

しかし、2016年に日本代表のキャプテンを任されていた時の自分は「かなりうるさいキャプテン」だったと内省する。堀江選手「ベテランは黙ってることが大切」と語る理由とは?

※本稿は、堀江翔太著『ベテランの心得 まずは自分が動かなアカンよね | 堀江 翔太』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

気づいた時があったんですよ。伝わってないなと思った瞬間が

2015年のW杯が終わり、パナソニックのキャプテンとして最後のシーズン、2016年あたりのことです。キャプテンとしての僕は、いつもの調子でどんどん喋ってました。喋り始めたら、いくらでも喋れますからね。

いろいろ思ったこと、感じたことをメンバーに伝えたいという気持ちが強すぎたんちゃうかなと思います。とにかく機関銃のように喋ってました。その時はまだ若かったし、たくさん伝えていくなかで、伝わるものがあるはずだと思っていたんかな。

でも、そのうちに「あ、これちゃうな」と気づいたんです。僕がとにかく喋りすぎたためか、みんなが意見を言わずに黙ってうなずいて、僕の言う通りにやっているような雰囲気になってきたんです。組織としてこれはまずいな、と思いました。

幸いなことに、僕がキャプテンをやっている間、パナソニックは勝ってましたし、それはそれでよかったのかもしれないけれど、僕だけが喋っているという雰囲気が嫌でね。「これ、自分が作りたいと思ってたチームとちゃうな。そろそろやり方を変えないとあかんな」と思うようになってきました。

ひょっとしたら、言葉でどんどん引っ張っていこうとする当時の僕のスタイルは、外から見たら「強力なリーダーシップ」に見えていたかもしれません。でも、それはちゃうんじゃないかと気づいたんです。

僕が「正しいこと」を喋ってしまうので、みんなからはなかなか意見が出てこない。たしかに正論だし、経験、実績が伴っていたので、後輩は発言しにくかったと思います。

だんだん僕が全部、正解みたいな感じになって、みんなも「堀江さんが言ってるんだし」という空気になってる気がしてね。こうなると、新しいものが生み出せなくなってしまう。そのことに気がついて、そろそろキャプテンとしては引き際だなと思いました。

おそらく、「キャプテン適齢期」みたいなものがあるんじゃないですかね。大学を出てチームに入って、3、4年プレーしてレギュラーの地位を安泰なものにしつつ、コーチ陣のやりたいことが深い部分で理解できるようになってくる。ベテランの選手にアドバイスも求めつつ、経験を蓄えていく。

20代後半は、キャプテン、リーダーとして成長できる貴重な時期だと思いますね。それを過ぎてベテランになったら、自分の発言に気をつけないといけないというのが、僕の実感です。

 

喋ることが、そのままキャプテンシーにはつながらないんですよ

いま、こうして振り返ってみても、パナソニックのキャプテンをしていた最後の時期、そしてジャパン(日本代表)のキャプテンを任せてもらっていた時は、喋りすぎたな、という反省ばかりが出てきます。

高校の部活もそうかもしれませんが、日本の場合は「キャプテンになったら喋らなあかん」という思い込みが強すぎるんじゃないですかね。実際に話す機会は絶対的に多いわけですし。

僕の場合も、「とりあえず、なにか話しとこ。自分の経験を出しとこ」みたいなことを考えてたわけです。でも、これはメンバーにとってみれば、うんざりって感じじゃないでしょうか。

喋ることの是非を考えるようになったのは、ジェイミー・ジャパンでの経験が大きいです。

2016年にジェイミー・ジョセフヘッドコーチがやってきて、リーチマイケルが日本代表としての活動を休んでいた時期だったんで、年齢的なことなのか、経験的なことなのか、僕がキャプテンに選ばれました。

だから、2016年の秋のウェールズ遠征では喋ってましたし、フォワード(FW)のメンバーとはよく集まっていろいろと話してました。で、2017年になって6月のテストマッチでリーチが戻ってきたんです。

そこからは、平のメンバーとして、"円"の中心からはちょっと退いた形で、遠目からチームを見られるようになったんですよ。それでリーチの話の進め方を見てたら、「あ、俺はかなりうるさいキャプテンやったんやな」と感じたんです。

言葉が正しいかどうかわかりませんが、ひょっとしたら「老害だったんちゃうんかな」と思ったほどでした。リーチはそれほど多弁ではなく、大切なことをしっかりと話す感じ。だから、大切な言葉が強調されるんです。

リーチの言葉を聞いていると、自分の場合は喋れば喋るほど、言葉の濃度は薄まっていたんちゃうかな、という気がしたんですよ。

「キャプテン適齢期」と同じで、言葉を尽くしてリーダーシップを発揮できるのは30歳くらいまでかな、と思いました。2019年のW杯を戦ったチームではちょうど30歳前後の選手が多くて、リーダーシップ・グループのメンバーだと、リーチが31歳、ピーター"ラピース"ラブスカフニが30歳、ガッキー(稲垣啓太)が29歳でした。

だいたい、このあたりの年齢の選手が国際経験も積んできて、チームの核になるわけです。30歳くらいまでなら、自分の言葉をしっかり伝えることでチームにいい影響を与えられるんちゃうかなと思います。

でも、30歳を過ぎて、32歳とか、30代中盤が見えてきたら、もうあまりチーム内で話さないほうがええと思います。かえって、黙ってることが大切なんちゃうかと思うようになったわけです。

ラグビーのチームというのは、新陳代謝も重要です。トップリーグだと20代後半の選手たちがキャプテンやリーダーになってきます。最近は、20代中盤、チームに入って2年目とかでキャプテンになっている場合もありますね。

そうした若いリーダーを中心にして、ベテランはリーダーのやりたい方向を向き、黙ってついていく。口は出さずに体を動かす。これでええんちゃいますかね。

もしも、日本代表でリーチが口うるさくなってきたとしたら、「お前、黙っとき」って言おうと思ってたら、2021年秋のタイミングで、キャプテンがラピースに交代しましたね。さすが、リーチもわきまえてます。

さすが、僕とたくさん食事に行っただけのことはあります(笑)。彼はこれから、チームをうまくサポートする強力なメンバーになるんじゃないでしょうか。

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