
30年間に渡り、ホスピス病棟(治療が難しいと診断された末期がんの患者さんを専門に関わる病棟)で働く小澤竹俊さんは、4000人以上の患者さんとのお別れを経験され、「たとえどんな人生であったとしても、人は幸せになれる」ということを学んだといいます。
本稿では、「幸せの探し方」についてお話を伺います。
※本稿は、小澤竹俊著『だから、あなたも幸せになれる』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
幸せの探し方
人生の目的は、幸せになることです。
しかし、実際の私たちの人生は、親の介護であったり、子育てであったり、人間関係であったりと、つまずくことばかり目立ちます。
解決できる苦しみは解決できれば良いですが、実際の私たちの人生は、解決が難しいことばかりです。
これからどうしていくと良いのかわからない人に、「幸せになるために、これからどのようなことをしていきたいですか?」と問われてすぐに答えることができる人はいません。
先が見えない人に、行き先をたずねるようなものです。
ところが、これからの進むべき道を考えるヒントがあります。それがイラストに示した4分割の対話の進め方です。
横軸は過去と未来、縦軸は事実と思いとします。
この4つの領域を意識すると、これからの進むべき方向性が見えやすくなります。
幸せ探しのヒント
① 過去の事実
幸せ探しの入り口は、過去の事実からはじまります。
というのも、過去の事実は、一番、思い出すことができ、答えやすいからです。
たとえば、「今日の朝ごはんは何を食べましたか?」と問われれば、ご飯と卵焼きとかパンケーキとサラダなどとすぐに答えることができます。
では、今まで生きてきた人生を振り返ってみて、覚えている出来事を挙げてみてください。
その気になれば、生まれた場所、幼少期に過ごした場所、通った学校、クラブ活動で汗を流したり、学習塾に通ったりしたことなどを思い出すことができるでしょう。
さらに年を重ねて、社会人となり、仕事をしたり、家庭を持ったり、子育てをしたり、親の介護がはじまったりと、人生のいろいろな場面を思い出すことができるでしょう。
[問い]
あなたの人生で、一番、楽しかったことは何でしょう?
その数ある場面の中で、一番、楽しかったことは、何歳の頃で、何をしているときでしょう?
学生時代に運動部で全国大会を目指して仲間とともに練習に励んでいたことを思い出す人もいるでしょう。
学生時代にサークル活動で先輩達や同級生達とボランティア活動をしていたことを思い出す人もいるでしょう。
家庭を持って子育てをしているときを思い出す人は、かなり多いです。
今がどれほど苦しくて、希望の光などを見つけることができないと絶望の中にいたとしても、過去を振り返ってみると、あなたにとっていきいきと輝いていた人生の一コマを思い出すことができるでしょう。
ここに幸せを見つけるヒントがあります。
なかには、楽しい時代など一つもなかったという人にために、少し補足します。その場合には、一番苦しかったときの振り返りでもかまいません。
その苦しかったときを思い出すことは、大切な何かを見つけるチャンスになるからです。
② 過去の思い
今まで生きてきた中で、あなたが、楽しかった時代を思い出したところで、今度は、あなたが経験されてきた過去の出来事という事実から、そのときにあなたが大切にされてきた思いに焦点をあてていきます。
[問い]
あなたが人生で大切にされてきたことは何でしょう?
あなたが人生で重要と思うことはどんなことでしょう?
なぜ、それはあなたにとって大切であり、重要なのでしょう?
今まで人生で楽しかったり、いきいきとされたりしていた頃を思い出しながら、あなたが人生で大切にされてきたことについて振り返ってみたいと思います。
何気なく過ごしてきた人生であったとしても、ていねいに振り返ってみると、あなたがこだわってきた何かが見えてくると思います。
家族を大切にされてきた人もいます。
嘘をつかず、誠実に生きることを大切にされてきた人もいます。
趣味を大切にされてきた人もいます。
人それぞれです。しかし、その人にとって、こだわって大切にされてきたこと、重要と思うことには、それなりの意味があります。なぜならば、その人が、いのちが限られる絶望に陥ったとしても、今まで大切にされてきた思いは残り続けるからです。
さて、ここで、楽しいことなどなかったという人ために、補足します。その場合の問いは、次のようになります。
[問い]
苦しかったとき、あなたが今日まで生きることができた理由( 支え)は何でしょう?
きっと、今まで気づかなかった、あなたにとって大切な何かが浮かび上がってくると思います。
その人が大切にされてきたことを、これからも大切にすること。何気ないことですが、幸せを実感できる可能性が見えてきます。
③ 未来への思い
今までは主に人生の過去について振り返ってみました。今度は、これからのことについて考えてみます。
[問い]
あなたが大切にされてきたことで、
これからも大切にしたいことは何でしょう?
大切なことを、これからも大切にすることは、あたりまえのようで、とても意義深いことです。
体力が衰え、今までと同じように外出ができなくなったり、趣味を楽しむことができなくなったりしたとしても、あなたが大切にされてきたことを、他の誰かから大切に思ってもらえることができたならば、幸せな思いを保つことができます。
④ 未来への行動
未来への行動とは、あなたが大切にされてきたことを、これからも大切に守っていくための具体的な行動を起こすことです。
[問い]
あなたが大切にされてきたことを、これからも大切にするために、
これからできることは何でしょう?
あなたが大切にされてきたことが、これからも大切にするための行動を考えてみます。
あなたが大切にされてきたことが、これからも守られていくと思えたならば、心は幸せになれることでしょう。
釣りを趣味にされていた人が、脊柱管狭窄症という腰の病気になりました。
少し歩くだけで激しい腰痛のため、家の外に歩いて出かけることができません。もう釣りに出かけることもできなくなりました。
釣りに行けないなんて、人生は終わってしまったと、悲しい気持ちになりました。
ところが、お孫さんの趣味は釣りでした。そこで、釣りを通して学んできたことや、さまざまな教訓をお孫さんに伝えるようになりました。
幸せを見つけることは、簡単ではありません。
しかし、あなたにとって、本当に大切にしてきた何かに気づき、その大切なことが、これからも守られていくと思えたならば、暗闇の中でも、小さな灯火を見つけることができるでしょう。
あなたにとって大切なものは何ですか?
あなたにとって大切なものを、これからも大切にされてください。たったこれだけでも、あなたは、幸せな人生を送ることができるでしょう。