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個人のレジリエンスを高める「自己効力感」とは何か?

工藤紀子(一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事)

2025年07月03日 公開

個人のレジリエンスを高める「自己効力感」とは何か?

自己効力感(セルフエフィカシー)は、スタンフォード大学教授の心理学者アルバート・バンデューラ博士によって提唱された概念です。

自己効力感は、「自分ならできる」「自分ならきっとうまくいく」と自分の能力やスキルに対して、信じられている認知状態のこと。「自信」に近いものですが、ただやみくもに「できる」と思うのではなく、明確な根拠に裏打ちされた自信といえます。

一方で自己肯定感は、「自分という存在」を好意的、肯定的に受け止め、長所だけではなく短所なども含めて自分をありのまま認め、自分を信頼している感覚です。

本記事では、自己肯定感と自己効力感、さらにその先にあるレジリエンスとの関係について、工藤紀子さんに解説していただきます。

※本記事は、工藤紀子著『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の一部を再編集したものです

 

レジリエンスを強化することが不可欠な時代に

タボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では、変化や危機に対する適応力の重要性について、近年たびたび議論されてきました。

2020年以降のCOVID-19 パンデミックは、多岐にわたる分野で前例のない変化を強いられました。職場でもストレスや変化に抵抗するのではなく、それらに適応する力を持たなくてはいけなくなりました。変化に柔軟に適応する力とレジリエンス強化の必要性を再認識させられたのです。

レジリエンスとは、困難やストレス、予測不可能な状況に直面したときに、それに適応し乗り越え、回復してさらに成長する力となるものです。

ハードに仕事をしている人、特に真面目に頑張っている人は、職場や社会生活でストレスやプレッシャーを感じ、心身が疲労しながら職務に就いていることも多いのではないでしょうか。

業務上のストレスを減らすことには限界があります。そのため、これからは仕事や社会生活での変化に適応するためにもレジリエンスの強化が必要不可欠となるのです。

自己効力感とレジリエンスは密接に関係しています。
ここからは、自己効力感を高めることを主軸に、自己効力感が高まるとレジリエンスが強化できることを伝えていきます。

 

自己効力感の先にあるレジリエンスを高めるプロセス

「自己効力感」は、ある特定の状況や目標に対して「自分はやればできる!」と自分の能力を信じられる根拠のある自信です。

自分の能力を信じられる心理的度合いは、「自分自身をどれだけ信頼できるか」の自己信頼が高い状態で強くなります。この自己信頼なくして、自己効力感は構築できません。この自己信頼をつくっているのが自己肯定感です。

自己肯定感は、自分の能力や自分がもたらす成果や結果に影響されることなく、自分に焦点を当て自分自身を信じられることです。

それに対して、自己効力感は、特定の状況や活動、タスクにおいて、自分に付随している能力に焦点を当て「自分にはできる」という信念を持っていることです。

自分の能力に自信を持つには、自分自身を信じる自己肯定感が必要なのは言うまでもありませんが、自己効力感を高めたその先に、物事をやり遂げ、困難を乗り切る「レジリエンス」へとつながっていくのです。

 

自己肯定感の「Beの自信」と自己効力感の「Doの自信」

「Beの自信」と「Doの自信」

自信には2つあります。1つは、自己肯定感と密接に関係している「Beの自信」、もう1つは自己効力感と関係している「Doの自信」です。この2つの自信が、レジリエンスを支えるしっかりとした土台となるのです。

自己肯定感と密接に関係している「Beの自信」は、どんな自分であっても自分の存在そのものを認めて受容していることで生まれるものです。何ができるから、何かが優れているからと、成果や評価などを根拠に、自分に自信を持つことではありません。

「Beの自信」は何があっても自分自身を支えることができる折れない自信のことです。「Beの自信」がないと、何かうまくいかなかったり、外的な要因によって影響を受けたりすると、メンタルが非常に脆くなります。

自己効力感と関係している「Doの自信」は、「自分がやることはうまくいく、自分はできる」と思える感覚で成功体験を積み重ねることで醸成されます。「Doの自信」は自分の能力への自信です。

「Doの自信」がないと、行動を起こすことを躊躇してしまうことが多いので、変化に柔軟に対応するのは難しくなります。

ここで注意が必要なのは、「Doの自信」は、状況や評価など外的要因に左右されやすいため、土台に「Beの自信」がないと不安定になりやすいという特徴があることです。

自分の能力への自信を高めるプロセスでは、状況や評価など外的要因に左右されない「Beの自信」があると、自己効力感は高めやすくなります。

レジリエンスを強化するプロセスで、この2つの自信は必要不可欠なのです。

 

自己効力感が高まることで持てる3つのスキル

自己効力感が高まることで持てる3つのスキルがあります。
このスキルは、自己効力感が高まるとさらに強化されます。これらのスキルがあると、困難な状況であっても変化に柔軟に対処でき、やり抜く力やレジリエンスが身につきます。

自己効力感が高まることで持てる3つのスキル
①立ち直りが早くなる(レジリエンス)
②諦めない、やり抜く力が持てる(グリット)
③成長意欲が高まる(モチベーション)

自己効力感は自らの力を発揮し前に進む力を与えてくれます。このスキルが持てると毎日の生活が意欲的に前向きになるだけでなく、より充実し幸福感が増します。人生において多くのポジティブな変化をもたらす重要な要素となるのです。

著者紹介

工藤紀子(くどう・のりこ)

一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事

外資系企業に勤務しながら、「自己肯定感(セルフエスティーム)の向上」について研究し、誰でも自己肯定感が高まる独自のメソッドを確立。2005 年から約2 万人に個人向け講座を行い、2013 年に一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会を設立し、代表理事を務める。キリンビール株式会社やNTT グループ、住友化学株式会社など多くの上場企業で、のべ1 万人以上に研修を実施し、満足度評価は96%超。全国の中学・高等学校、行政機関でも研修や講演を行っており、平成31(2019)年度版『中学生の道徳』(Gakken)の教科書と教師用指導書を執筆した。著書に『そのままの自分を受け入れて人生を最高に幸せにしたいあなたへの33 の贈り物』(三恵社)、『職場の人間関係は自己肯定感が9 割』(フォレスト出版)などがある。

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