SNSで話題を呼んでいる飯漫画『週末やらかし飯』は、OL・空子さんが平日のストレスを癒すため、金曜の夜に"背徳的"なハイカロリーごはんを思う存分楽しむ物語。チキンラーメンを5袋分一気に作ってみたり、2キロの豚バラブロックを丸ごと角煮にしてみたりと、登場するごはんはどれも“やってみたい衝動”をかき立てます。読むほどに「好きなことを、好きなだけやってもいい」と背中を押してくれるような、ご自愛の物語でもあります。
そんな自分を肯定するエッセンスが詰まった本作ですが、作者・小村あゆみさんは「読んだあと、何も残らなくていい」と語ります。その言葉の裏には、小村さんならではの優しさがありました。
毒にも薬にも栄養にもならなくていい
――多くのお話の最後は心温まる言葉で締めくくられています。その言葉をお考えになる上で意識していることはありますか?
【小村】考えずにメニューありきで描き始めるので、「こういう締めになったかー!へぇー!」ってなります。うまいこと言えて草。みたいな...(笑)
―――そうだったんですね。少し意外です。
いいこと言おうと思って描くとちょっと気持ち悪いんじゃないかなとも思います。だから、うまいこと言ったようで言えてないときもある気がします。
それから、1話分の中にあったストレスは必ずその話でスッキリさせて、読んだあとは何も残らなくていいと思っているのでそのために締めを作っている感じかもしれません。毒にも薬にも栄養にもならなくていいです。
――"何も残らなくていい"というのは、どうしてそう思うんですか?
【小村】何か問題提起をしようとするのも自分には荷が重いので、読者が読んでいるときだけ暇つぶしできればそれでいいんじゃないかなと。「良いもの読んだな」とかじゃなくて「これが食べたい」って思ってもらえればいいだけの漫画なので、それ以外の部分は何も残らなかったでいいんじゃないかなと。
トイレとかにポンと置いてあるような、そういう気軽な漫画になってほしいんですよね。食べ物漫画だから、トイレっていうのもあれなんですけど...(笑)
ちょっとした暇なときに一部分だけ読んでポイでいいと思っています。私のヒット作と言える『うそつきリリィ』もそういう感じで作っていたので。本当に毒にも薬にもならなくていいし、さらっと読めたらそれでいい。
――そのように思い始めたきっかけは何かあったのでしょうか?
【小村】深い作品や重い作品を読むのは好きなんですけど、自分自身はそういうので人を楽しませられる作家じゃないんだって自分でわかってるからかもしれないです。できるだけ軽くなるように、でも真面目に描こうと意識しています。『やらかし飯』は特にそれが強いかもしれません。
心を満たすために「自分がやりたいこと」をちゃんとやってあげる
――空子さんは週末に"やらかす"ことで気持ちを整えています。空子さんはどのようにその独自のリセット方法に辿り着いたと思いますか?
【小村】毎日は経済的にも体型的にも無理、でも週1くらいでやらないとストレス発散できない!次の日絶対目覚ましで起きたくない!余った食材は1週間くらいかけないと消費できない!で週1になったかんじかな...なんとなく最適化されてきた感じだと思います。
――たしかに、土日だと地味に翌週の仕事のことだったりが気になりますね...。金曜日に「やらかす」というのは納得です!
小村先生は、ご自身を満足させてあげる手段は何かありますか?
【小村】基本家で仕事をしているので、ストレスが溜まらず好き勝手やっているのですが...あえて言えば、家族に美味しいものを食べさせるのが好きで、料理も好きなので、好き放題にご飯を作って家族に食べてもらうとか。漫画でもらったお金で、みんなに美味しいものを食べさせてちょっとドヤ顔するとか。そういうので満たされますね。
――メンタルが不調なときの"サイン"に気づくために、空子さんもしくは小村先生が心がけていることはありますか?
【小村】空子さんはメンタル不調にならないために息抜きを上手にとっているのでわかりませんが、自分は自分自身に攻撃が向いてるときはダメだなって感じ意識が外に向いているときは元気だなとは思います。
そもそも「自分」について考えすぎない状況を作ってあげるのがいいかなと思っています。自分のことなんか考えてもしょうがないし。不調になる前になんとかしてあげたいですよね。
例えば私だったら、自分に矢印が向きすぎたなと思ったら何か別のことに集中します。漫画を読んだりゲームをしたり。
自分のことじゃなくて、別のことにもっと責任を持つみたいなイメージですね。そうすると自分の不調を考えている暇がないので。
最近、植物を育てているんですけど、種類を調べたり季節を調べているだけで自分の余計なことを考える暇がないんですよね。
いや、私はもうちょっと仕事のことを考えろって怒られるかもしれないんですけど...担当さんには内緒にしてください(笑)
――何かタスクをいつでも持っておくと、心が安定するのかもしれないですね。
【小村】空子さんで言えば、食べもののことをいつも考えていますけど、何にせよ自分がやりたいことをちゃんとやってあげられるといいなと思います。むしろそれだけかもしれません。
食べてストレス発散じゃなくて、ストレスがあっても楽しいことで上書きできたらいいですよね。
"ストレスを食べ物で"ってなると、ネガティブなものが食事に入ってくる気がしちゃうんですけど、そうじゃなくて。嫌なことはいったん忘れて楽しいことをやってみたらいかがでしょうか、みたいな感じです。
何も考えたくないときに読める漫画に
――まさに『やらかし飯』は、好きなことを好きなだけやりたいと思わせてくれる作品だと思いました。"がんばりすぎてしまう人"に向けて、小村先生はどんなセルフケアを提案したいですか?
【小村】知識があるわけでも勉強したわけでもないので軽はずみに言えないですが...ただ、「自分は何がしたいか。何が嬉しいのか」だけはじっくり聞いてあげて叶えてあげて欲しいと思います。
自分がどうしたいかをちゃんと考えること、それを叶えられる自分であることはわりと自信になると思うので...。
ご飯好き!ご飯食べたい!わたしが好きなのはこれ!わたしが食べたい味!!サイコー!っていうのは自分の中だけで完結してていいなと思います。
――自分の中で完結していることは、心を守る上では大切かもしれません。
【小村】疲れているときに、人の評価が入るときつい気がしますね。絵が好きで描きたくて自分が好きなのを書いたけど、SNSでいいねがあんまりもらえないって思うとモヤモヤすると思うので。そこにはいかない自分の中だけのサイクルができるといいなって思います。
――ここまでお話をうかがっていて、『やらかし飯』は小村先生の気持ちの保ち方や習慣が映し出されている作品なのかなとも思いました。実際に描いていていかがでしょうか?
【小村】『やらかし飯』は描いていて楽しさしかない気がします。むしろ、"楽しさしかないように"もしてます。ちょっと血迷って深いことを描かなきゃとか思い始めたら駄目だなと思うので、そこは担当さんに止めてもらいたいですね(笑)
軽さを忘れないようにいたいです。麩菓子くらいスッカスカでいたい(笑)
――麩菓子も美味しいですものね。
【小村】スッカスカだからこその美味しさもありますよね。もちろん悩みとかそういうものを軽く扱うっていう意味じゃなくて、漫画としての軽やかさみたいなものをこれからの連載でも大事にしたいです。
"読んで元気が出る"と言うと高望みかもしれないですが、心がしんどくて重たいものを見たくないとか、何も考えたくないとか、そういうときに読めるものって意外と少なかったりするんですよね。だから、そういうとき用の漫画になれたらいいなと思います。
――軽そうに見えて、小村先生の優しい思いが詰まっているんですね。
【小村】そう感じてもらえると嬉しいです。それが押し付けがましくならずに描ければなって感じですね。でも「これが美味しいんですよ」っていう主張は出ちゃうと思うんですけど(笑)
(取材・執筆:PHPオンライン編集部 片平奈々子)










