ゆうちょ銀行と郵便局は何が違う? 銀行が変わる今こそ知っておきたい基礎知識
2025年10月30日 公開
2025年10月、NTTドコモが住信SBIネット銀行を子会社化しました。
大手通信会社ではすでにauやソフトバンクもグループに銀行を抱えており、異業種からの参入はもはや珍しくありません。 それでも今、銀行ビジネスが過渡期を迎えているのは明らかです。
その変化を後押ししているのが「フィンテック」などの新たな潮流であり、今後10年で銀行の姿は大きく変わる可能性があります。 本稿では、数ある銀行のなかでも特に身近で独自の立ち位置を持つ「ゆうちょ銀行」について、金融エディターの菊地敏明氏の書籍『銀行ビジネス』より解説します。
※本稿は、菊地敏明著『銀行ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
巨大銀行・ゆうちょ銀行はなぜ誕生したか
身近な金融機関として忘れてはいけないのは、やはり、ゆうちょ銀行・郵便局でしょう。
全国には営業中の郵便局が2万3453もありますから(2025年5月末現在、簡易郵便局を含む)、銀行や信金・信組の店舗はなくても、郵便局はあるという地域も少なくないです。その意味では、ゆうちょ銀行・郵便局こそが最も身近な金融機関といえるのかもしれません。
ところで、ここまであえて「ゆうちょ銀行・郵便局」という書き方をしてきましたが、ゆうちょ銀行と郵便局の違いがよくわからないという方は、意外に多いのではないでしょうか。そもそも郵便事業が明治政府によって始められたのは1871(明治4)年。1875(明治8)年にはそれまでの郵便役所・郵便取扱所が「郵便局」と改称され、郵便為替・貯金事業もスタートします。
以降、郵便局は長らく国の機関でしたが、2003年には特殊法人の日本郵政公社となり、さらに2007年のいわゆる「郵政民営化」で分割されます。
具体的には、持株会社の日本郵政株式会社のもとに、郵便事業を行う郵便事業株式会社、銀行業務を行う株式会社ゆうちょ銀行、生命保険業務を行う株式会社かんぽ生命保険、そして、その3社から委託を受けて窓口業務を行う郵便局株式会社が連なる体制となり、日本郵政グループを形成したのです。
その後、2012年には郵便局株式会社が郵便事業株式会社を吸収合併して日本郵便株式会社となり、「郵便局」という名称は社名から消えることになります。その結果、現在の郵便局は日本郵便の事業所を指す名称になりました。
両社の統合によって郵便事業は日本郵便の自前業務となったものの、銀行業務については、あくまでゆうちょ銀行からの委託を受けて窓口業務などを行っているという形式です。
つまり、郵便局自体は銀行ではなく、日本郵政グループの銀行はゆうちょ銀行ということになるわけですが、国営の時代に長らく銀行窓口業務を行ってきて、現在も委託という形であっても窓口業務を行っている郵便局が、銀行と混同されてしまうのは無理もないのかもしれません。
一般の銀行とは異なる2つのポイント
ここで改めて、ゆうちょ銀行がどんな銀行であるのかをみていきましょう。金融庁の銀行免許一覧では、ネット専業銀行などと同じ「その他」に分類されています。
もっとも、「その他」であってもその規模はあまりに大きく、通常貯金口座数は約1億2000万と日本の総人口とほぼ等しく(2024年3月末時点)、総貯金残高も約190兆円と三菱UFJ銀行の預金残高に次ぐ水準です(2025年3月末時点)。ちなみに、「貯金」と「預金」に実質的な違いはなく、預け先が異なるだけで、ゆうちょ銀行やJAバンクなどでは貯金という名称が使われています。
ただ、民営化されたといっても、ゆうちょ銀行には一般の銀行とは異なる点が大きく2つあります。1つは、貯金できる額に上限があることです。現在は1人あたりの通常貯金が1300万円まで、定期性貯金が1300万円までとなっています。この上限額の設定は国営の時代から続いていたもので、民業圧迫を避けるのが目的でしたが、従来は通常貯金と定期性貯金を合わせて1300万円だったものが、2019年に倍増しました。
もう1つが、法人向けの融資を行っていないことです。そのため、ゆうちょ銀行の収益構造は他の銀行と大きく異なり、金融サービスの提供による手数料ビジネスによるものと、貯金を国内外の金融市場で運用するマーケットビジネスによるものが柱となっていて、後者が収益の約8割を占めています。
このように、もともと国営だったゆうちょ銀行には制約もありますが、今後は変更される可能性もあります。ただし、ゆうちょ銀行が新規事業を行うためには、金融庁と総務省の認可が必要となります。それは巨大な資金を抱え、日本全国に幅広いネットワークを持つゆうちょ銀行の動向が、他の金融機関に大きな影響を与えかねないからです。けれども、民営化された以上、いずれは他の銀行と変わらなくなっていくのかもしれません。







