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ソロ活ブームはなぜ起きたのか? おひとりさま時代に必要な「心のケア」

荻上チキ(評論家)

2026年05月15日 公開

ソロ活ブームはなぜ起きたのか? おひとりさま時代に必要な「心のケア」

さびしさ、悲しさ、不安感、無力感――。孤独は多くの負の感情をもたらします。荻上チキさんの著書『孤独をほぐす』は、孤独とはなにかを丁寧に解きほぐしながら、この社会がいかなる孤独を生み出しているのかをエッセイ形式で読み解いた一冊です。

同書より、単身世帯が増える昨今、どうやってセルフケアをしていくのかを綴った一節を紹介します。

※本稿は、荻上チキ著『孤独をほぐす』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

私たちはどうセルフケアするか

現代の日本では、単身世帯が増えています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年代には、単身世帯の割合がおよそ40パーセントに達するとされています。

背景の一つは、高齢世帯の増加です。長い人生の中で、死別や離別などを経験し、人はいつか、またひとりになる。だからこそ「おひとりさま」への備えが必要であるとして、多くの提言がなされています。

もう一つは、未婚率の上昇です。昨今、婚姻制度を利用せず、同居・同棲を行なわない人の割合が増えています。非婚化社会の背景には、雇用状況の変化などの経済的要因や、デート文化の後退といった文化的要因などが指摘されていますが、いずれにしても「ソロ状態でいること」が、すでにスタンダードになっていると言えそうです。

友情婚やシェアハウスなど、恋愛や結婚以外のつながりで生活を支え合おうとする動きもありますが、その動きはまだ全体の一部。ソロ化は変わらず、大きな潮流です。

そんな社会では、長大なひとり時間を健康に過ごすための知識、方法、気構えなどが必要となっています。すなわち、「私たちはどうセルフケアするか」という問題です。

 

「ソロ活」がもたらした変化

身の回りでも2010年代後半ごろから、セルフケアをめぐるいくつもの動きがありました。

ご飯を食べたこと。出勤したこと。生きていること。なんでも「えらい」と肯定してくれるペンギンのキャラクター「コウペンちゃん」が大ヒット。私の部屋も、コウペンちゃんのぬいぐるみでいっぱいになりました。

性暴力にノーを突きつける「#MeToo」ムーブメント以降、「自分の身体は自分のもの」「性的同意」「バウンダリー(他人との境界)」「ノー・ミーンズ・ノー(同意のない性行為は性暴力である)」など、自己領域の尊さが訴えられてきました。

ひとりカラオケやひとり焼肉、ひとりキャンプにひとりピクニックなど、ソロ活領域の開拓が社会的ムーブメントになりました。ソロ活ブームは、「集団でするもの」「男性がするもの」とされていた活動を、個人でもできる、性別や年齢問わずできる、というカウンター(対抗)的側面を含んでもいました。

今、日本ではじわりじわりと、「ご自愛文化」が広がっているように思います。それも、単に個人での「ご自愛」で終わるのではありません。

たとえばジェーン・スーと堀井美香のポッドキャスト「OVER THE SUN」で提唱されているように、自愛には多分に、「互助会」的な側面があります。このポッドキャストはもともと「相談は踊る」「生活は踊る」という、人生相談&暮らし情報を届けるラジオ番組から出発しています。生活を改善しながら、自愛と慈愛を重ね、支え合う個人という姿が見えてきます。

 

男性にも広がるセルフケア

ご自愛文化は、さまざまな年代や性別にまで広がっています。美容メディア「VoCE」で連載されていた漫画『僕はメイクしてみることにした』は、アラフォー独身男性である主人公が、スキンケアやメイクにはまっていく過程を描いた作品です。鏡に映る自分を好きになることが大事なセルフケアなのだと発見していくというストーリーですが、私も読後にまんまと、フェイスクリームを買ってしまいました。

『賭博破戒録カイジ』のスピンオフ作品『1日外出録ハンチョウ』では、街中にあるちょっとしたグルメやレジャーなどを楽しむ中年男性たちの姿が描かれます。こちらもウェブ連載されているため、しばしばバズることがあるのですが、第77話にあたる「食叫」というエピソードは、大きな反響を呼びました。

このエピソードはとてもシンプルです。男性3人で、おしゃれなカフェのテラス席で、リコッタパンケーキを食べるというもの。なんとなく敬遠していた店舗に入り、甘いものをシェアしながら食べる。そのことに、そこはかとない開放感を覚えるというエピソードは、いかに「ご自愛」のレパートリーがジェンダーレス化されてきたかを物語っています。

このエピソードの肝は、「おじさんのセルフケア」が笑われると恐れていたものの、周囲の客もみなパンケーキに夢中で、誰も中年男性たちのことを気にしていないことです。

 

自虐や自己卑下でつながっていた前時代

2007年、「スイーツ(笑)」という言葉が、ネット上での流行語として話題となっていました。これは、洋菓子などを「スイーツ」と呼びかえるトレンドを楽しんでいるように見える女性に対して、蔑称的に用いられるネットスラングでした。

このころ、合わせて嘲笑されていたのは、「自分らしさを演出」「ガールズトーク」「がんばった自分へのご褒美」「自分磨き」「女子会」といった言葉たちでした。このころまさに、ご自愛や互助の文化はジェンダー化され、匿名掲示板などでネガティブな意味付けをされていました。

このころのネット作法は、さげすみ、嫉み、自虐や自己卑下によってこそ互いがつながるというものでした。そこで増強された呪詛は、批判者本人にとっても、セルフケアや互助の軽視につながっていたように思います。

自愛を嗤う空気におもねり、自意識がセルフケアを妨げる。そのムードは、デフレ不況とも結びつき、セルフネグレクト(自分自身を放棄すること)を加速させる要因にもなっていました。自分のために時間やお金を使うなど、無駄で幼い振舞いだ。そんなさげすみがはびこっていたのです。

今、ご自愛文化が再評価されているのは、社会的にも重要なことです。ソロ活ブームの拡大は、こうした嘲笑ムードが溢れた前時代へのカウンターという側面がありました。

ただし、いくつもの注意が必要です。たとえば、互助の背景に、公助の脆弱性がありはしないか。ご自愛の仕方が、「市場でお金を使う」という方法に偏っていないか。誰もが自愛を簡単にできるわけではないという背景や事情を軽んじていないか、などです。

ご自愛文化とどう付き合うか。その意識的な問いかけが、ますます重要性をおびています。

プロフィール

荻上チキ(おぎうえ・ちき)

評論家

1981年兵庫県生まれ。社会調査支援機構チキラボ所長。NPO法人ストップいじめ!ナビ代表。著書に『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『いじめを生む教室』(PHP新書)、『みらいめがね』シリーズ(ヨシタケシンスケ氏との共著、暮しの手帖社)など。編著に『「あの選挙」はなんだったのか』(青弓社)など。ラジオ番組「荻上チキ・Session」(TBSラジオ)パーソナリティ。同番組で、ギャラクシー賞を受賞(2015年度ラジオ部門DJパーソナリティ賞、2016年度ラジオ部門大賞)。

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