【連載:和田彩花の「乙女の絵画案内」】 第4回/ルノワール『陽光の中の裸婦』
2013年11月08日 公開 2024年12月16日 更新
生き生きとした女性の肌
アングルやゴヤといった画家が描いた裸体は、室内に存在していました。そのため、肌の様子はとても美しく描かれているのですが、人形のように感じてしまいます。
でも、ルノワールは、陽光の下に裸の女性を連れ出してしまったんです! 女性の肌には刻々と色を変える自然の光があたっていて、いわゆる「肌色」だけではなく、さまざまな色で描かれています。不自然なほど暗い部分があったり、明るく輝いて透き通るようだったり。血管の青黒い様子まで感じられるほどです。
そういった描写がほんとうにすごいと思うのですが、神話になぞらえてしか女性の裸体を描くことができなかった当時は、衝撃的だったことでしょう。
とくに、女性の右手、上腕部の表現に惹かれます。 生きている! っていう生命感が感じられるからです。
表情を見てみると、なんだか捉えどころがない感じですね。ルノワールは、この絵では表情を描くことにあまり重きを置いていなかったのかもしれません。
背景に描かれているのは木々でしょうか。リズミカルなタッチですが、ザザッと一気に描いているようです。
だからでしょうか、よりいっそう、女性の肌に繊細さと生命力が表れているように感じます。
『陽光の中の裸婦』(オルセー美術館蔵)は、発表当時は酷評されたようです。「死体のようだ」とまで言う批評家もいたといいます。
彼らには、この女性の生き生きとした肌が伝わらなかったのでしょうか。これまでの裸体画では考えられないほどの生命力が絵に描きこまれているのに。何度見ても、やはり右腕に目がいってしまいます。
あるいは、ルノワールは女性を描くのがうますぎたのでしょうか。
実際の女性として見るには生々しすぎて、逆に死体に思えてしまったのかもしれません。
ほかの画家たちの裸体画を観ても、ルノワールの絵ほどリアルには感じないのです。それはそれでまた違った魅力があるのですが、ルノワールの裸体画からは、どの画家よりも生きている女性の息吹が伝わってきます。
何気ない瞬間を切り取る
もしルノワールにも私を描いてもらえるとしたら、フェルメールとは違って、昼の光のもとで描いてほしいな。
ふだん仕事で写真に撮っていただくときは、カメラ目線で、しっかりポーズをとった写真が多いのですが、ただ遊んでいる光景を描いてほしいんです。
そんな私の様子を、ルノワールにずっと観察してもらう。そして、ふとした拍子に見せる私の自然な表情を切り取って描いてもらいたいと思います。
ルノワールの絵のなかに出てくる乙女たちは、自然な表情が描かれていることが多いみたい。画家に向かってずっと同じポーズをしているのではなく、ルノワールの記憶にとどまった何気ない表情を、描いているんだと思います。
『陽光の中の裸婦』では、モデルの右腕にひらめいた一瞬の生命力が、ルノワールの目にとまったのだと思います。この絵では女性の肌を主題に描きたかったのかも。
そんなふうにして、遊んでいる私をルノワールにいっぱい観察してもらえたら素敵です。猫が蝶々を追いかけるように、私も蝶々を追いかけたりするんです。
そんなとき、私はどんな表情を浮かべるのでしょうか。きっと自分では知らなかった部分を、ルノワールが引っ張り出してくれる気がします。
服はあまり凝ったデザインではなく、シンプルなものを着たいですね。そのほうが、ルノワールらしさが出てくるのではないでしょうか。
かわいらしい少女をたくさん描いたルノワールが、アイドルがいっぱいいる現在の日本にいたら、どうなるんだろう。きっとモデルにしたくなるんじゃないかな。
でも、きっと自分が描きたいと思ったアイドルしか描かないんでしょうね。描いてもらったアイドルはファンが激増しそう! 私は描いてもらえるかな? 描いてもらえたら嬉しいです。
超個性派集団の仲間たち
モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ……。一口に印象派として語られていますが、その個性はまったくバラバラです。絵も、一目見ればだれの絵かすぐわかります。
時代に挑戦した印象派の画家たちは、超個性派集団でもあったわけです。一人ひとりの個性が、印象派をつくりだしたともいえるでしょう。
新しいことをしよう! きっと、そんな意志がみんなを集めたのだと思います。個性派だからこそ、一度集まってしまえば、あとはそれぞれがどこで何をしていようが、ちゃんと1つにつながっているというのも素敵です。
スマイレージも、そんなグループに成長していきたいな。どんどん新しいことをして、ファンのみなさんに喜んでもらいたい。そのためには、それぞれの個性がとても大切なんだと思います。
もし印象派の仲間がだれもいなくて、ルノワールだけだったら、ここまで生命力に満ち溢れた乙女たちを描けたでしょうか。
厳しい批評家の言葉に、心が折れてしまったかもしれません。
作風も、描く対象も違っていても、新しいことを一緒にできる仲間がいる。これこそが、印象派の画家たちの最大の武器だったのだと思います。
仲間であり、ライバルでもある最高の関係です。
パリという、いわば芸術家にとっての約束の地の存在も大きいんじゃないかな。いろいろな才能が集まって、才能を爆発させる街です。
のちの「エコール・ド・パリ」も「フォービズム」も、絵画における大きな潮流は、パリから発信されていきました。
そこに向かえば何かが始まるって、だれもが思える場所があるのは最高です。
日本も、アイドルやアニメに出会うために世界中から人が集まってくる。そんな場所になれたら素敵ですよね。
女性をたくさん描いたルノワール。
「なんか、あいつ女の子ばかり描いて変じゃん」とか、いまならいわれてしまうかも。
でも、ルノワールが描く乙女たちは、同じ女性から見ても、かわいいし、きれい。
女性以上に女性のかわいらしさを追求しつづけ、絵のなかに表現していったのがルノワールなんだと思います。
他人になんといわれても、自分がやりたいと思った道を進んでいったルノワールや印象派の画家たちは、やはり絵画史のなかでも画期的な集団です。時を経て、世界中で圧倒的な人気を誇るのは、自然なことだと思います。
<著者紹介>
和田彩花
(わだ・あやか)
1994年8月1日生/A型/群馬県出身
ハロー!プロジェクトのグループ「スマイレージ」のリーダー。
2009年、スマイレージの結成メンバーに選ばれ、2010年5月『夢見る 15歳』でメジャーデビュー。同年の「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。近年では、SATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット「ピーベリー」としても活動中。高校1年生のころから西洋絵画に興味をもちはじめ、その後、専門的にも学んでいる。
スマイレージ公式サイト
和田彩花オフィシャルブログ「あや著」