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社会

<尖閣問題・日本の一手>国際提訴がもたらす6つの効果

古森義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

2014年09月19日 公開 2022年07月08日 更新

国際提訴がもたらす6つの効果

ニクシュ氏の提案の内容を詳しく紹介しよう。同氏は日本による国際提訴への動きは日本側に少なくとも6点で利益をもたらすという。6つの効果とは以下のような内容だった。

第一の効果

日本による提訴方針の表明は、尖閣問題に関するアメリカ全般、とくにオバマ政権の対日支援を強化する。国際紛争の平和的解決はオバマ大統領の主要政策である。日本の尖閣問題の国際司法裁判所への裁定の求めはその政策に合致する。オバマ政権がこれまで表明してきた軍事的緊張の緩和にも寄与する。

中国がそれでも軍事攻略に傾けば、アメリカの日本防衛もより確実となるだろう。オバマ政権内部には、大統領の日米安保の尖閣適用の言明にもかかわらず、アメリカの尖閣への軍事関与に反対する勢力があるが、日本側の国際提訴はその反対意見を弱める効果がある。アメリカ側の一部に存在する歴史問題に関する日本への批判も減るだろう。

第二の効果

中国がICJ裁定を拒むことは確実である。結果的に国際社会での中国非難がさらに高まる。

中国は1990年代以来、海洋領有権紛争は相手国との二国間の直接交渉のみによって解決を求めるという基本方針を明確にしてきた。第三国の関与にも、国際機関の裁定にも反対する強硬な方針を打ち出してきた。

その結果、中国はアメリカの関与に抗議し、フィリピン、ベトナム、マレーシアとの領有権紛争に関して東南アジア諸国連合(ASEAN)と交渉することにも難色を示してきた。

さらに中国は、南シナ海のパラセル(西沙)諸島の紛争でフィリピンが国際海洋法裁判所(ITLOS)へ提訴する手続きをとったことに対し、裁定への参加を拒み、提訴の撤回を求めている。

第三の効果

日本の提訴は、中国の軍事力行使に対する日本側の抑止力を増大させる。

日本の国際司法裁判所提訴を中国が拒否すれば、中国に対する国際社会での非難が改めて強まる。中国が歴史を利用して展開する反日プロパガンダの効果も大幅に減殺されることになり、中国は外交的にさらに孤立する。

中国の日本糾弾の外交キャンペーンも効果が薄れる。その結果、中国が軍事手段を行使する可能性に対し、アメリカや欧州、東南アジアの反発が大幅に強くなる。その反発は軍事力の行使に発展する可能性も考えられ、中国は自らの軍事行動にブレーキをかけることになる。

第四の効果

国際提訴することによって、日本は尖閣防衛のための軍事力を増強しやすくなる。中国が国際調停を拒んで軍事的姿勢を強めれば、対中対決や防衛力の増強を嫌う日本の国内勢力の主張が弱くなるからだ。つまり、日本政府は尖閣防衛の強化策を進める正当性を得ることになる。

オバマ政権は日本側に軍事力行使への抑制を求め続けるだろうが、日本の国際提訴によって、同政権の一部にある日本独自の防衛強化への反対論はそれまでよりは弱くなる。

第五の効果

日本の国際提訴は、東南アジア諸国、とくにフィリピンとの対中連帯を強化する効果をもたらす。

国際海洋法裁判所はフィリピンの提訴に対して第三国の意見を求めている。日本がこの役割を果たし、国際機関への新たな参加や信頼性を築くことになる。アメリカは国連海洋法を批准していないため、この役割は果たせない。そのため、日本がアメリカの意思をも代弁することができる。

フィリピン政府はすでに国際海洋法裁判所に合計4000ページもの関係資料を提出している。南シナ海での領有権紛争の国際的解決に向けて、東南アジア諸国はフィリピンに大きな期待を寄せている。

日本がそこに関与することは、東南アジア諸国との海洋協力や戦略提携をも容易にする。また日本とフィリピンの海洋協力をも拡大する。

第六の効果

同提訴は、日本の法律面での対外姿勢に整合性をもたらす。

日本政府は竹島問題では国際司法裁判所の裁定を求める構えを示したが、韓国側が拒んでいる。日本がその一方で尖閣問題については国際裁定を求めないという姿勢に対しては、一貫性や整合性に欠けるという指摘がこれまで存在した。

日本が尖閣問題を国際提訴すれば、竹島への姿勢と一致して、いずれも海洋領有権紛争の国際法的解決メカニズムの推進につながる。その結果、韓国が日本の竹島の国際裁定提案に対して浴びせてきた非難も弱められるだろう。

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