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「俯瞰力」―なぜ、ビジネスマンに必要なのか

山口真由(ニューヨーク州弁護士)

2015年03月26日 公開 2024年05月28日 更新

 

「頭のいい人」と「仕事で成功する人」

◆財務省の三羽烏、最後に残ったのは……

 広い視野を持つということは、「他人の視点を持てる」ということでもあります。

 自分の視点を確立するのみならず、他人の視点に立って、周囲と自分の関係性を敏感に感じとって調整する、バランス能力を身につけることも意味するのです。

 「できる人」というと、「切れ者」というイメージを描きがちです。しかし、本当に最後の最後にトップに立つ人物に必要な資質というのは、それとはやや異なるものではないか、私はそう思うようになりました。

 財務省のはるか先輩に、超優秀と言われた3人の方々がいらっしゃいました。いずれも同期入省、ライバル関係にあるわけです。ちなみに、この3人があまりに優秀であるがゆえに、この年は財務省の「当たり年」とまで言われているそうです。

 1人は、行動力に優れた親分肌。

 もう1人は、「日本の頭脳」と呼ばれた、カミソリ級の切れ者。

 最後の1人は、バランス感覚に優れた気遣いの人。とはいっても、他の2人と比べて強烈な個性を持っていたとは伺っていません。

 この3人のうち、最終的に組織のトップにまで上り詰めたのは誰だったかというと……。

 親分肌の1人は、行動力に優れるあまり、清濁併せ呑の む少々強引な方法で事を進めようとしました。そして、「濁」の部分が許容範囲を超えることになり、最終的には、省を去らなければなりませんでした。

 切れ者の1人は、論理に勝るカミソリであるがゆえの尖がった性格もあってか、やはり、組織のトップにはなっていません。この方も、省を去って、違う業界で異能を発揮されています。

 結局、省のトップに上り詰めたのは、バランス力に優れた最後の1人だったのです。財務省改革の嵐の中を、絶妙なバランスによって乗り切った彼は、最終的には財務省のトップの地位に就くことができたのです。

 人情味にあふれて自分の決めた道を邁進する行動力、あるいは鋭い分析力と明快な論理力、いずれも仕事をする上で重要な要素ではあります。実際に、前者の2人は、財務省入省時から、際立って光っていたと言われています。幹部候補生として、将来を期待され、かつ、約束された、いわば、選ばれた存在だったわけです。

 しかし、最後の1人は、当初から光っていたわけではないそうです。むしろ、同期でも特に目立った2人には、水をあけられていたと聞きます。しかし、最後の1人は、経験を重ねれば重ねるほど光る人材だったそうです。多くの前途有望な若手が、途中で輝きを失ってしまう中、ポストが上がるほど光る人材になるための重要な能力、それが、全体的な広い視野に立ってバランスをとる力、つまりは「俯瞰力」なのです。

◆プレーヤーの能力とマネージャーの能力

 さて、皆さんは、ご自分を振り返って、この3人のうち、自分がどのタイプに近いと思われるでしょうか。

 ごく大まかに、行動型、頭脳型、バランス型、として考えてみましょう。

 ここで多くの方が─特に若い方は、「行動型か頭脳型か」をまず考えるのではないでしょうか。自分は行動的か、それとも、思慮深いか。自分はエネルギッシュなタイプか、または、クールなタイプか。自分は意志力あふれるリーダー型か、はたまた、参謀・ブレーンタイプか。そうした自己分析は、これまでも何度かされたことがあるでしょう。

 それに比べて、「バランス感覚に優れているかどうか」については、あまり考えてこなかったのではないでしょうか。

 なぜなら、社会に出てからは、バランス感覚を明確に問われる機会が少ないからです。

 「周囲との関係性の中でどう行動するか」というテーマは、もちろん、プライベートでも一定の関心事ではあります。しかし、行動力や知性と比較して、やや華やかさに欠けるこの能力は、社会人としてまず身につけるべき能力とは、されてこなかったように思います。

 ところが、実際には、周囲の人々の性格や能力、上下関係、利害関係、思惑やプライドといったもの、こうした周囲との関係性が、結果を大きく左右します。この周囲との関係性というのは、なかなか分かりにくいもので、合理的に説明しにくいものです。そして、その合理的に説明されない何かを的確に捉えて、周囲との関係の中で、うまく力を発揮するために必要なものが、バランス力です。

 このバランス力は、自分の社会的な地位が上がるにつれて、ますます大切になる能力です。

 なぜなら、実行力や頭の良さは、主に業務を遂行するとき─「プレーヤー」として働くときに使う能力であるのに対し、バランス感覚は「マネージャー」としての能力、全体を見て、自分だけではなく他人を動かしていく管理職に必要となるものだからです。

 先ほど述べたように、財務省では、入省時に最も輝きを放つタイプと、時間を経るにしたがって輝きを増すタイプがいるといわれています。後者のタイプは、この「マネージャー」としての能力が高いのでしょう。そして、財務省の人事を長年分析し続けたある記者によれば、最終的に組織のトップに立つのは、後者のタイプだそうです。

 実行力や論理力など「プレーヤー」としての強みを持つ人は、入社時からスターとしてもてはやされます。そのような人に憧れ、同じような能力を伸ばそうとする人も多いでしょう。しかし、実際には、真のトップとなるために必要なのは、全体の中でバランスをとるための「俯瞰力」ではないか、そう思えるのです。

<<POINT>>上に立つ者は、周囲がよく見えていないといけない

 

<書籍紹介>

東大首席弁護士が教える「ブレない」思考法
仕事に必要な「俯瞰力」の磨き方

山口真由著

本体価格1,300円

弁護士・コメンテーターとして活躍する著者は、どのように情報の収集・判断をし、ものごとの見極めをしているのか。そのノウハウを公開。

著者紹介

山口真由(やまぐち・まゆ)

弁護士

1983年生まれ。札幌市出身。筑波大学附属高等学校進学を機に単身上京。2002年に、東京大学入学し、法学部に進み、3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。また、学業と並行して、東京大学運動会男子ラクロス部のマネージャーも務める。学業成績は在学中4年間を通じて“オール優”で、4年次には「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け、2006年3月に首席で卒業。同年4月に財務省に入省し、主税局に配属。主に国際課税を含む租税政策に従事。2008年に財務省を退官し、2009年に弁護士登録。現在は主に、企業法務を担当する弁護士として活動するかたわら、テレビ番組や執筆等でも活躍中。
著書に『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(扶桑社)、『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)がある。

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