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借金40億円!瀕死の企業を立て直す

2015年09月01日 公開

湯澤剛(〔株〕湯佐和 代表取締役)

がんばる期間は5年限定

 もうひとつやったのは、期限を定めたことである。

 私が抱えている借金は、完済まで最低でも80年かかる額の借金だ。債務超過の解消でも50年かかるのだから、まともに考えていたら心が折れる。そんなゴールのことまで考えると、一歩も踏み出せる気がしない。

 だから期限を区切り、一定の期間だけ必死にやろうと決めた。その間だけは、どんなに辛くても、屈辱的であっても(板前に「謝れ」といわれようが、金融機関に行って無駄に「頭を下げろ」といわれようが)、目の前のことに集中しようと決めた。そして、その期間を「1827日」とした。

 1827日とは、つまり5年間のことである。

 365日×5年+2日=1827日

 足している2日は閏年2月29日の2日分である。こんなことにまで頭が回る自分を当時は不思議に思わなかったが、肚を括った結果の不思議な冷静さの表れだろう。こうしようと決めた時点で、それだけの心の余裕ができていたのだ。

 これに付随して、3つのルールもつくった。

 ・5年の間、たとえ借金が減らなくても、逆に増えたとしても気にしない。

 ・とにかくこの5年間は、会社を継続することだけに専念する。

 ・5年経って状況が何も変わっていなければ、最終計画に従って会社を清算する―。

 現実から目を背け逃げ続けていた私に、ようやく立ち向かう覚悟ができたのである。

 今になってわかるのは、一番危険なのは、覚悟が定まらず迷っているときだということだ。肚を括って一歩踏み出すのは、1日でも早いほうがいい。肚を括る前のほうが、恐怖は大きかった。

 

何か増えても、日数だけは確実に減っていく

 この5年のために、1827日分の《日めくりカレンダー》を作った。妻にも手伝ってもらい、手作りで作成した。そしてそれを、寝室に置いた。

 「今日も会社は潰れなかった」「今日もなんとか乗り切った」「自分も会社も、まだ生きている……」そう思いながら、就寝前にカレンダーを1枚めくることで、明日への思いを強く保つことができた。

 布団に入る直前に、「ああ、今日も1日終わった、あと1800日だ」と紙をめくるそのときだけは、心が軽くなった。

 辛く屈辱的なことかあっても、とにかく1日は終わるのだ。

 1日減ったら、もう増えることはない。

 借金は増えるかもしれないし、状況も悪くなりえるが、日数だけは必ず減っていく。それが本当にありがたかった。カウントダウンの効果は絶大だった。

 なぜ「5年間だったのか」については、明確な理由はない。

 多くの会社は事業承継をしてから5年以内に倒産しているという話は聞いていたので、とにかく5年やれば何らかの結論は出るだろうという程度だった。

 また、生きている間にはできなかった父への親孝行として、一生涯というのはさすがに勘弁してほしいが、5年くらいなら自分の人生をこの会社に捧げても後悔はしないだろうと思えた。

 5年経っても、40ちょっとだ。キリンビールにいたときのようにとはいかないだろうが、またビジネスマンとして生きていこうと思えばいけるだろう。親に対する義理も果たして、その上で自分の人生を歩もう。そう考えていた。

 

当面策と根本策を並行して進める

 将来のことは考えない。この借金が返せるとか返せないといったことは考えずに、とにかく5年間は会社のために、目の前のことに全力を尽くす―。

 こんなふうに考えて、日めくりカウントダウンカレンダーを始めてみると、私の悩みの質が変わってきた。

 それまでは「俺の人生はどうなるんだろう?」「この借金は本当に返せるのか?」といった漠然とした不安が頭の中を覆い尽くしていたのだが、肚を決めてみると集中できるようになる分、目の前の具体的な事象への心配が強くなってきたのだ。前述した、モグラ叩きのように各店舗で日々発生するトラブルへの対処がその代表格である。

 しかし、モグラ叩きが問題なのは、すべてが受け身になって、目の前のトラブルを処理することだけに追われてしまうことだ。トラブル対応しているだけで時間はあっという間に経ったし、ただただ振り回され、疲弊してしまった。

 これでは、いつまでもどん底の状態から脱却できないとすぐにわかった。

 今すぐになんとかしなければいけない問題に対処していくのと同時に、本当に必要な取り組みにも対処しなければ……。そこで、緊急事態への「当面策」と、問題の発生原因にメスを入れる「根本策」を、並行して行おうと決めた。

 たとえば、今いる板前が次々と問題を起こすという状況があったときに、このトラブルは早急に解決しなければいけない。これが当面策だ。しかし、同じような人材を採っている以上、この問題はいつまでもなくなりはせず、永久に同じことを繰り返してしまう。

 となれば、採用はスポーツ新聞の三行求人ではなく、きちんとした媒体にきちんとした形で労働条件を出し、労働条件を整えたうえで面接の仕方も変える―といった仕組みを作る必要がある。これが根本策である。

 同じように、店で一度でも水漏れが起きたときに、それに対応するマニュアルを作っておけば、他の店舗で水漏れが起きたときに右往左往することがなくなる。

 ただ、この2つの策を並行して行うのは、時間的にも精神的にも非常に大変だった。

 ドタバタと右往左往している中で、マニュアルを作っている時間などなかったからだが、一時的にはどんなに大変になっても、これはどん底から脱却するためにどうしても必要なプロセスだった。目の前の火事には対処しなくてはならないが、ずっと消防車として走り回っていては、いつまでも火事の発生原因に根本的に対処できない。

 そこでいくつかの工夫をした。

 まず、「最悪の計画」を作ったように、すべきことを紙に書き出した。

 今の現状を脱するためにはどれだけの仕組みが必要なのかをリストアップしたのだ。

 「そこに書かれている仕組みを全部作り上げれば、緊急事態も必ず減る」というリストを作る。そうすると優先順位もつけやすくなるし、実行に移りやすくなった。

 それから、当面策で頭をいっぱいにして根本策が置き去りになるのを避けるため、それぞれを分けて考えようと、「物理的な場所」も分けることにした。当面策は本社事務所で対処し、根本策は別にある会議室で考えることにしたのだ。

 頭では根本策の大切さを理解していても、現実に実行できている人が少ないのは、忙しく「モグラ叩き」を続けているうちに。頭の中が当面策に占領されて、根本策にまで意識が向かなくなってしまうからだろう。

 私の場合も、事務所にいると電話がかかってきたりして、好むと好まざるとにかかわらず緊急事態に追われてしまう。だから朝、本社に出社すると当面策の処理をすべて済ませてしまい、その後は、店を回るために外に出て、夕方6時以降は別に借りている会議室に行く―という行動をとるようにした。場所を替えてしまうと強制的に頭が切り替えられ、これが効いた。

著者紹介

湯澤剛(ゆざわ・つよし)

〔株〕ユサワフードシステム代表取締役

1962年、神奈川県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、キリンビール〔株〕に入社。国内ビール営業を経て、人事部人材開発室ニューヨーク駐在、医薬品事業本部海外事業担当などに従事。99年、創業者であった父の急逝により、会社を引き継ぐ。現在、神奈川県下で鮮魚居酒屋などの飲食店を経営。経営学修士、認定レジリエンス・トレーニング講師、神奈川県中小企業家同友会会員。著書に『ある日突然40億円の借金を背負う――それでも人生はなんとかなる。』(PHP研究所)などがある。

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