牧山純子　ジャズのなかにはいろいろなエロスがある

ＰＨＰ新書『ジャズとエロス』より

ジャズのイメージとは

　ジャズからイメージするものは何ですか？　という質問によく聞く答えは、「大人っぽい」「ウイスキー」「シガー」「オシャレなバー」「セクシーな美女を連れたちょい悪オヤジが聴く音楽」などなど。レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説のようなイメージをおもちの方が多いようです。

　たしかに、ジャズクラブにお越しになるお客さまは男性が多いのですが、最近はカップルや女性のお客さまも増えてきました。

　映画やドラマで、男性が女性を口説くときに流れているBGMがジャズ、というシーンをよく観ます。ちょっとイイ感じの雰囲気で女性を口説こうとしているとき、BGMがパンクロックだと落ち着かないだろうし、交響曲だと重々しいし、ポップスだと賑やかすぎるし、やはり恋人同士が静かに語り合い、男性が女性を口説くときにはジャズバラードが似合います。

　そういうイメージが先行して、一般的にジャズはちょっとエロいと思われているようです。

　ライブにお越しいただいたお客さまからも、私の演奏中の表情が色っぽいとか、とても楽しそうにしているとおっしゃっていただくことがしばしばあります。時には、「あのピアノの人とつき合っているんですか？」などと聞かれることも。

　ステージで演奏していると、共演者と何回もアイコンタクトをとったり、その場の空気を読んで息を合わせたりするのですが、お客さまから見ると、それはまるで恋人同士のように見えるのかもしれません。私自身、ステージ上では恋愛を意識したことがないので、このようなことをいわれて驚くことがあります。

肉食系と草食系

　男性ミュージシャンの場合、とくにオジサマ世代のミュージシャンは女性好きな方が多いのも事実。客席に、好みのタイプの女性がいるのを見つけたら、「あの子をふり向かせたい」と意欲満々で演奏しているのがすぐわかります。肉食系オジサマが奏でるメロディーは、やっぱり肉食系なメロディーになりますね。それがオジサマたちの「生きる力」であり、だからこそメロディーにエロスが宿るのだと思います。

　ところが、最近の若い男性ミュージシャンは時流に乗っているというか、草食系男子が多くなってきました。肉食系オジサマと比べると、奏でるメロディーもやはり草食系。それぞれ、若いミュージシャンなりのよさ、熟練ミュージシャンなりのよさがありますが、どちらがお好みかはお客さま次第です。