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「世界遺産」と「大河ドラマ」は地方創生の起爆剤になるのか?

牧野知弘

2016年10月02日 公開 2022年08月25日 更新

「大河」と「連ドラ」頼みは補助金と一緒

地方の「売り」を打ち出す際によく使われるのが、NHKの大河ドラマと、朝の連続テレビ小説です。2013年のNHK大河ドラマは、福島県会津地方を舞台とした『八重の桜』。同地方の生まれで、後に同志社の創立者となる新島襄の妻である八重の生涯を描いたもの。東日本大震災のあとということや、主演を人気女優の綾瀬はるかが務めることもあって、会津を訪れる観光客が激増しました。同年の観光客数は395万人、前年比プラス33%、100万人以上の増加を記録しました。

ところがドラマが終了するやいなや、翌年には289万人と大河ドラマ開始前の2012年の水準すら割り込むこととなりました。

私自身、2014年に会津若松市を訪れる機会があったのですが、街中至るところに「いまだに」八重の桜のポスターや幟が飾られている光景に、やや違和感を覚えました。

地元の人に聞いても、「ドラマが終わったら、また元通りになるわな」。

これでは、観光としての効果はわずか1年で終了ということになってしまいます。

朝の連続テレビドラマ小説、2011年の4月から始まった『おひさま』。長野県安曇野市を舞台に、激動の昭和を生き抜いた一人の架空の女性、須藤陽子をテーマにした作品。主演した井上真央の人気にもあやかって、ドラマの舞台となった安曇野市のわさび田付近には観光客が連日押し寄せました。

このわさび田には日本の原風景ともいえる水車の廻る素敵な場所があり、格好の観光スポットとなったのですが、残念ながらやはりドラマが終了した後の2012年には、観光客数は2割減。それでもその後、ドラマ開始前よりも3割程度観光客は増加しているので、こちらは成功の部類といってもよいのかもしれません。

大河ドラマも連続テレビ小説も、NHKという全国ネットで長期間にわたって放送される番組ですので、ドラマの舞台となることは大いに観光誘因効果が期待できるのは確かです。

しかし、ここで話題になった街が、たった1年でもう誰の口からも話題に上らないというのは寂しい限りです。私には、こうした現象は、自治体がNHKからもらう補助金のようなものに思えてしまいます。確かに一時的な効果はあるものの、効果が1年では、この補助金が本当に地方創生のために活かされているということはできません。

同じような存在としては、毎年3回も開催される国民体育大会(国体)があります。この大会は1945年12月以来、国民のスポーツの祭典として、各都道府県の持ち回りで毎年開催されています。しかし以前は国民の関心が高く、メディア等でも大きく報道されたものが、今ではほとんどの人が開催されていることすら意識していない大会になってしまいました。

このように見てくると、大河ドラマも連続テレビ小説も、国民体育大会も、実は地方の名を借りただけの「上り」の理屈で組み立てられたものなのではないでしょうか。そのために、その場その時は人々の関心を買っても、単発での効果しか期待できずに、継続的な地方創生には繫がらないのです。

そろそろ地方は、中央が開催してくれる催しや仕掛けに頼ることを見直すべきタイミングに来ているのではないでしょうか。

著者紹介

牧野知弘(まきの・ともひろ)

オラガ総研株式会社代表取締役社長

1983年、東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産を経て、2006年、J‐REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場。現在はオラガ総研株式会社代表取締役としてホテルや不動産のアドバイザリーのほか、市場調査や執筆・講演活動を展開。主な著書に『空き家問題』『インバウンドの衝撃』(以上、祥伝社新書)、2020年マンション大崩壊』(文春新書)、『不動産投資の超基本』(東洋経済新報社)など多数。

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