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予測困難な時代にこそ 「使える先見力」を

マネジメント誌「衆知」

2017年10月25日 公開 2017年11月01日 更新

予測困難な時代にこそ 「使える先見力」を


 

井上陽介(いのうえ・ようすけ)
グロービス経営大学院マネジング・ディレクター
1975年東京都生まれ。学習院大学法学部卒業後、消費財メーカーを経て、1999年グロービスに入社。企業向け人材コンサルティング、名古屋オフィス新規開設リーダー、法人部門マネジング・ディレクターを務めた後、デジタル・プラットフォーム部門を立ち上げ、責任者として組織をリード。また、「クリエイティビティ」「イノベーション」等のプログラムの講師や、大手企業での新規事業立案コンサルティングにも携わる。フランスINSEAD:IEP、スイスIMD:HPL修了。

将来を予測することが難しいこの時代に、先見力を磨くにはどうすればよいのか。ビジネスリーダー育成に定評のあるグロービス経営大学院において、創造領域プログラムの講師として活躍する井上氏は、リーダーが鍛えるべき四つの要素を指摘する。実践のためのポイントをうかがった。

 取材・構成:平林謙治
 写真撮影:長谷川博一

※本記事は、マネジメント誌『衆知』特集《先見力を磨く》より一部を抜粋編集したものです。
 

ファクトにもとづく「解釈力」と「歴史観」

未来を予見する先見力のメカニズムを、「過去から未来へ流れる時間の経過」と「本人のものの見方・とらえ方の広さや深さ」の2軸に沿って分析すると、次の4つが必須要素となります。

1)過去からのトレンドをとらえる「解釈力」「歴史観」
2)自身の状況に閉じず俯瞰的に世の中の動きをとらえる「俯瞰力」
3)自身の志を掘り下げる「判断軸」
4)未来を主体的につくり出す「行動力」

ビジネスの未来はみずから切りひらき、つくり出すものです。だからこそ、思考や発想にかかわる1~3の側面を鍛えるだけでなく、4の一歩踏み出す行動力まで伴わないと、何も価値を生み出しません。これら4つが揃わないと、ビジネスに使える先見力とはいえないのです。

先見力に必須の各要素を、1の「解釈力」から順に見ていきましょう。従来型の将来予測では読めない、想定を超える事件(イベント)が増えています。イベントは予測できないものの、過去からの大きなトレンドや根底の変化をとらえることは不可能ではありません。そのためには一にも二にも“ファクト”。すなわち過去、実際にあった事実のみを頼りに、その積み重ねにもとづいて、どういう変化が起こっているのかを考える姿勢や読み解く能力が必要になってきます。これが「解釈力」です。

ファクトを押さえるためには、絶えず知識・情報の幅を広げ、深く耕しておかなければなりません。その知識や情報を組み合わせ、そこにはどういう意味合いがあるのか、自分なりの仮説を立てるのです。そしてその仮説を常に検証し、事の展開を時系列で追いながら必要に応じて肉づけしたり、修正したりしてアップデートしていく。そうしないと、骨太の深い解釈にはなかなか至らないと思いますね。

過去からのトレンドをとらえる時、もう一つ重要になってくるのが「歴史観」です。世の中で今何が求められているかを問うためにも、歴史観を持つことはビジネスリーダーにとって必須だといえるでしょう。われわれのような教育ビジネスでいうと、例えば慶應義塾大学を創設した福沢諭吉が、当時どういう状況下でどのような行動をとったのか。150年以上経っても、それを学ぶことには普遍的な意味があります。日本のみならず世界の歴史にふれ、歴史を遡りながら世界的な潮流を理解する。そうすることで、表層の短期的な変化を超えた、より根本的なマクロのトレンドを掴み、今、そしてこれから何をすべきかを考えることができるようになるのです。
 

「思考のギプス」で視座を高く、視野を広く

私たちは普段、世の中の動きをよく見ているようでいて、実はそうでもありません。日常にどっぷり浸かっていると、ものの見方やとらえ方はどうしても限定されてしまうからです。そこで必要なのが、英語でBirdʼs eye view(鳥瞰)と呼ばれる2の「俯瞰力」。空を飛ぶ鳥の眼から世界を見るように、視点・視座をより高く引き上げ、より広い視野を持って、環境の変化や問題の構造を立体的にとらえ直すことをいいます。この「俯瞰力」を高めるためのポイントもいくつかお伝えしましょう。

第一は、できる限りマクロデータにふれることです。人口動態もそうですし、テクノロジーの変化についてもそうですね。

二つめとして、視野を無理やりにでも広げるために、あえて「フレームワーク」を活用することも大切でしょう。フレームワークとは「思考の枠組み」です。モレやダブリがないように、何らかの枠組みを設けて情報を整理すると、全体の俯瞰が容易になり、それまで見落としていた視点もクリアにならざるをえません。一例として、事業戦略に関する問題解決に効果的な「3C分析」というフレームワークがあります。事業にかかわる事象をCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の三つのCの枠組みに整理する方法で、これを使うと、例えば「競合のことを見ていなかった」というミスを避けることができますし、より適切な仮説を見つけやすくもなるわけです。視野を無理やりにでも広げ、普段は考えていないところにまで考えを及ぼすようにするところから、われわれはこの手法を「思考のギプス」と呼んでいます。

私は担当する講義でトヨタ自動車をよく例に挙げるのですが、同社には、社員一人ひとりに繰り返し問いかけ、考えさせる組織文化が根づいています。例えば、「あなたの仕事の本当の目的は何ですか」という問いがあります。この問いもある意味、「俯瞰力」を高める思考のギプスだといえるでしょう。仕事の目的というと、日常ではつい売上や予算といった目前の数字に意識が向かいがちですが、それらを達成した先にある本当の目的とは何なのか。自問自答を習慣づけ、徹底的に考え抜くことで、視座をより高く、視野をより広く保つことができるからです。

また三つめとして、普段会わない海外の人や異業種・異業界の人に会いに行ったり、国内では見られない海外のユニークなビジネスモデルに現地で直接ふれたりすることも、「俯瞰力」を高める大切なポイントです。みずからの状況に閉じこもりがちな日常の殻を破り、新たな視点を吸収していくきっかけとなりやすいでしょう。

※本記事はマネジメント誌『衆知』特集「先見力を磨く」に掲載したものです。

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