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「道徳の授業」が本当にいじめの発生を防ぐのか?

2018年07月17日 公開

荻上チキ(評論家)

荻上チキ(評論家)

<<今年の春に小学校でスタートし、来年度からは中学校においても教科化されることが決まっている「道徳」の授業。教科化のきっかけは、2011年に滋賀県大津市で発生した、いじめを苦にした中学2年生の自殺事件であった。

NPO法人ストップいじめ!ナビの代表理事を務める荻上チキ氏は、道徳の教科化が、特定の道徳観の押し付けとなり、いじめを助長する可能性を危惧しているという。

「いじめを生む教室」を減らすために本当に有効な授業とは、どのような授業なのか>>

 

道徳の授業の後に、いじめがエスカレートしていた!?

いじめ予防を議論する際、しばしば「道徳の授業」「命の授業」「あいさつ運動」などの提案がなされます。特に2018年からは、道徳の授業が教科化することになりました。

その大きなきっかけは、大津市のいじめ自殺事件でした。道徳を教科化することで、痛ましい事件が繰り返されないようにというのでしょう。

しかし、こうした議論を展開していた人は、まず間違いなく、大津市のいじめ事案について無理解であったと言えます。それはなぜか。

2011年に起きた大津市のいじめ自殺事件。それが起きた中学校は、文科省の「道徳教育実践推進事業」の指定校でした。

この学校では、道徳教育の主な目標の一つとして、いじめのない学校づくりというものがうたわれていました。

また、第三者によるいじめ報告書を読むと、いじめがエスカレートしたタイミングの一つが、道徳の授業の後であったことがわかります。

そのため、報告書では、「いじめ防止教育(道徳教育)の限界」という節を設け、いじめ問題に取り組むためには、道徳の授業などに偏重することのない、総合的な環境是正が必要であるという提言までされているのです。

道徳教育のモデル校でいじめ自殺が発生した─。そんな事例を受けて、「いじめ対策のために、道徳を教科にしよう」と主張することは、どう考えてもおかしい。

そもそも道徳教科化の推進論者は、その政策がいじめ対策に効くという論拠を示せていません。もともと道徳を教科化したいと考えていた人たちが、大津の事件を政治利用したにすぎないのです。

その授業の枠組みをどう使うか。それによっても効果は変わるでしょうが、教科が増えることで、教師の多忙感が増し、生徒と向き合う時間が減るのであれば、本末転倒です。道徳の教科化は、日本の教育論議の歪みを象徴するような出来事だと思います。

(次ページ:特定の道徳観の押し付けは、マイノリティや逸脱者への攻撃を促す)

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